奥久慈、上山-明山-竜神峡(2004.12.2-3)


☆期日/山行形式:
2004.12.2-3、前夜旅館泊1日、単独

☆地形図(2万5千分1): 大中宿(白河12号-2)

☆まえがき
    図らずも、奥久慈、明山(ミョウヤマ)で今年一番の紅葉を見る事ができた。
山方町と水府村の境にある標高僅か 457.4m の小さな山だったが、個性ある山が集まっている奥久慈山域でも、トップクラスの秀峰だった。

  数年前、奥久慈の山旅から帰る時に乗ったバスが竜神峡大吊橋に立ち寄ったとき、谷奥に立つ鋭鋒が目にとまった。
国土地理院の地形図で当ってみると、それとおぼしい小ピークに三等三角点のマークと "明山" と言う文字が記されていた。

  柄は小さいがかなり目立つ山なので登頂ルートが整備されているに違いないと調べてみたが、一般的なガイドブックには紹介されていないようだ。
日頃、各地の細かな山の情報ソースとして便利に利用している、山渓社の分県登山ガイドブックシリーズ "茨城県の山" 分冊をめくってみたがこちらにも、僅かに籠岩ルートのページの脚注として、大久保から三つ葉峠を通って亀ヶ淵に抜けるサブルートが記されてはいるだけで、明山に関する具体的な記述は見当たらなかった。
(写真をクリックすると拡大します)
つつじヶ丘展望台から望む奥久慈連峰。
左端の富士山形が長福山。 その右の岩山が山域の盟主、男体山。 さらにその右手に連なっているのが奥久慈岩稜。


  地形が複雑な山域ではあるが何度か通って大体の様子は分かっているし、山の大きさも知れているのだから、ぶっつけ本番でトライしてみようかと思っているいるうち、たまたま手に入れた某ハイキング誌出版社から出た阿武隈山域の記録集(末尾参照)の中に籠岩から三つ葉峠を経て明山に登った記録を見つけた。
また、それと前後して発行された月刊誌に、竜神峡から明山に登って大子町の湯沢温泉に抜けた山行の記録が掲載された
頂上直下には最大傾度50度ほどもの急登があるがそこを抜けると素晴らしい展望の頂上があると言う。

  これは是非行かずばなるまいと考え、今年の阿武隈山行で幾つかの山を登って帰る時にこの山に登る計画を立てた。

  ところが、生憎、出発日近くに、季節外れの台風が来ると言う週間予報が出た
今年は夏から秋に掛けて、お天気の神様に逆らうと碌な事がない事を思い知らされている。
いさぎよく日程を短縮、この山の登頂のみを目的とする単一山行に切り換えた。

  行動計画のあらましは、前の日の夕方に水郡線西金駅から湯沢温泉まで入って宿泊。
翌日に湯沢(80)からつつじヶ丘(200)、上山(ウヤマ 400)、庚申塚(315)を経て三葉峠(395)に上がり、明山(457.4)に登頂。  三葉峠(395)に戻ったら峠の東側、竜神峡の亀ヶ淵(210)へ下り、竜神ダム湖の遊歩道(210)から竜神ダム(175)へ。 ダム入口(130)からバスで常陸太田に出て、水戸経由帰ろうというものだった。

  計画変更は報われ、終日穏やかな快晴に恵まれることとなり、楽しく山歩きができた。
また、道迷いあり難場ありで、小さな山には似合わぬ充実した山行となった。
特に、明山頂上からの展望の素晴らしさは期待をはるかに上回った。
錦繍の衣を纏った奥久慈一帯の山々と、那須・安達太良方面への展望を心行くまで楽しんだ。



☆行動記録とルートの状況
<タイムレコード>
12月2日
    宮崎台[11:46]=表参道=上野[12:50 \2940]=[14:57]水戸[15:15]=[16:15]西金-(16:35)湯沢温泉{湯元屋旅館}

12月3日
    湯沢温泉(7:35)-つつじヶ丘(8:25/30)-駐車場(8:40/キジ/50)-上山(9:30/迷う/10:00)-庚申塚(10:10)-大久保入口(10:20)-夫婦岩(10:40)-三葉峠(10:50)-明山(11:15/30)-三葉峠(11:45)-(迷って10分ロス)-亀ヶ淵(12:30/35)-竜神ダム(13:35)-(13:45)竜神ダム入口[14:03+]=(茨城交通バス \850)=[14:58]常陸太田[15:12]=[15:52]水戸[16:04]=[18:11]北千住=宮崎台


  鄙びた素朴な湯沢温泉に泊まった翌朝はこの冬最高の冷え込みとなった。

  登校途中の小学生と朝の挨拶を交わしながら進んで行く道に沿う野菜畑は霜で真っ白だ。

  入湯沢谷の奥へ入って行くと奥久慈岩稜が姿を現した。
去年の紅葉の季節にトレースした稜線だ。
一度歩いた所は "友達" で、何とはなしの親近感がある。
片側がすっぱり切れ落ちてスリルがあるとともに眺めが良く、面白い縦走ルートだった。

  佐中への道を左に分け、坂を下って沢を渡った所に正覚寺に上がる階段がある。
さらに100m 程進んだ所に立っている道標の向側から舗装林道が分岐している。
この道に入り、寺の横手を通って山に上がって行く。
寺の建物は新しく、大きくて立派なのだが草生して荒廃の気配が漂い、何となく気味が悪い。

  杉林の中で左に向けてUターンする所で分岐している "霊園" への道(左)に入り、石垣の角の向の側に立っている錆びた道標の脇から始まっている山道に入る。

  つつじヶ丘に出ると冒頭パノラマ写真のような展望が開けた。
名残りの紅葉が朝の陽を浴びて輝いていた。

  いったん舗装車道に出てまたすぐに尾根に上がり、杉林の中を登って行くと山上の小平地にある上山(ウヤマ)の集落に着く。

たった2軒の農家のまわりに段々畑が広がっていて、山上の別天地だ。

   畑の向い側を通っている舗装車道には左のような道標が立っていた。
畑が広がっている窪地の下手の方に進めば龍神峡の方に行けるようだ。
そちらに向って歩き、尾根の鼻を回り込んだ所に、また2、3軒の集落があった。

  その先に山方町が立てた案内地図看板が立っていたのだが、その表記が紛らわしくて判断に迷った。
  いったん元に戻ってみたが舗装車道は上山集落のすぐ先で尽きている。
やはり道標が指している方向に進んで行く以外の選択肢はない。

  行ったり来たりで30分ほども時間を無駄にしたが下の集落の先をさらに進んで行くと "庚申塚" と思われる地点があった。
ここには、道標、馬頭観音石像が立ち、塚らしい高みの上に左のような東屋が建っていた。

  さらにひと歩きの所に、地形図に "大久保" と記入された小集落があった。
道端でシートの上に豆を広げているオバサンがいたので道を尋ねたら、もう少し先にハウスがある所が入口で、そこを入ってゆけば明山に行けると教えてくれた。

  オバサンが教えてくれた青シートのハウスはすぐだった(左)。
道の向い側に看板が立ち、ルートマップが描かれている。
またその脇には、"竜神峡、亀ヶ淵"とか、"明山" とか記した幾つかの道標やプレートがあってここが間違いなく明山への取付きだと言う事が分かった。

  明瞭な山道に入り、斜面を斜上して行くと右下に家の屋根が見える。

  ひと登りで尾根の上に乗る。
右上に明山らしいピークが見えた(左)。

  礫岩とでも言うのだろうか、奥久慈連山共通の岩でできた痩せた尾根だ。
両側が切れ落ちているお蔭で見晴しがよい。

  白塗りの道標が立っている小ピークに登り着いた。
多分ここが夫婦岩だと思った。

  頂上を乗り越したあとの下りはかなり急だ。
潅木が多いので腕力を頼りに下ってゆくと鞍部に下り着く手前で一層急峻になった。
虎ロープが取り付けてあったのでその助けを借りて10m あまりを急降下し、狭い鞍部に着く。
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  鞍部からまたすぐに登り返し、コブを越えて行くと、 "亀ヶ淵、竜神峡" と記した道標が立三ッ葉峠に着く(左)。
尾根伝いの道と峠を乗越している道が十字に交わりっている。

  道標の脇を直進して明山に向った。
ひとつピークを越し、痩せ尾根を伝わって行くと頂上直下の急登になる。
傾斜は40−50度ほどで6、70m 位の急登があって虎ロープが取り付けてある。

  二箇所、ちょっと難しい場所があるが笹と潅木の間のため、高度感がない。
岩も乾いていて問題なく登降したが、雨で岩が濡れていたり、降雪のあとなどで凍結していたら、かなり危険になる場所だ。

  登り着いた明山頂上は切り立った岩峰ゆえ、まわりの疎らな樹木のほか、遮る物もなく、360度の視界が得られる(左)。

  遠く、西の方に那須、北西に安達太良と思われる連山が見えた。
すぐ北の奥久慈竜神峡源流地帯の山並みが錦繍の衣を纏って広がっている(下)。

  もう時期が過ぎてしまっただろうと、期待していなかっただけに、美しい紅葉に見惚れた。
これは間違いなく、今年見た一番の紅葉だ。
(写真をクリックすると拡大します)

明山頂上から見た竜神峡源流地帯。 今年最高の紅葉はだった。



  東南方、はるかかなたに竜神大吊橋が見えた(左)。
日本一と言う大吊橋が小さく見えるほど遠い。
これから谷に下り、あそこまで歩いて行かなければならないのかと思うといささかゲンナリした。

難場を慎重に下って三ッ葉峠に戻り、亀ヶ淵への下降路に入った。
思っていたより歩きやすい良い道だったが下部のルートになっているゴーロが今年の大水で荒れ、所々で踏跡が分かり難くなっていた。

  もう少しで亀ヶ淵という所に黒いザレ場があった。
僅かな部分だが道形が消えていたため、そこを下って谷の中に入ったのだが、これは間違いだった。

  ひと下りで本谷の水流が見えてきたがそこへは滝を降りなければ行けない。
両側も急峻でとても通れないので、元に登り返す。黒ザレの脇まで上がって先の方を良く見ると笹の間に続いている道が見付かった。
道は、本谷合流点付近の岩壁を高捲いて尾根の裏側まで行き、小さな沢窪を下っていた。
沢窪に入るとすぐに本流と、対岸を通っている林道が見えた(左)。
  亀ヶ淵の小滝(左)の下で本流を渡って林道に上がると、ちょっとした広場があって、数基の野外テーブルが並んでいる。
奥手の方にはトイレもあった。

  野外テーブルでひと休みしたあと、車道歩きに移った。
舗装された林道という感じの道だが車が入ってこないため静かなのが良い。
この谷は激しく屈曲し、両側が高い障壁になっている。
視界が狭められ、遠くが見えないが、 少し歩いた所では、僅かに明山らしいピークを仰ぎ見る事ができた(左下)。

  途中の東屋で数人が休んでいたがそれ以外殆ど人影を見かけなかった。

  進んで行くと前方の山の上に吊橋の鉄柱が見えてきた。
左手の山に上がる道があったが回転ゲートになっていて入れない。
橋を渡って降りてくる人のための一方交通になっているようだ。
無理やり入ることもできそうだったが大人しく車道歩きを続けた。

  はるか上空を渡っている吊橋の下をくぐるとまもなく竜神ダムだった。
ダムのすぐ下手に "そば亭" があったが2回の道迷いで時間が遅くなったので諦め、通り過ぎた。





  県道へ下ってゆく坂の途中では山田川沿いの集落が紅葉の里山をバックに奇麗だった(下)。


  道路に出た所にはトイレが、その向かい合わせに新しい白木造りのバス停小屋があった。

  バス停小屋のベンチにザックを下ろして山支度を解き、林檎を食べた所へバスが来た。

  下高倉(馬次入口)から常陸太田駅までの間を運行しているバスは、約1時間掛けて山田川谷を走り下る。
谷から出るまでは好ましい山村風景が続く。
移り変ってゆく田園風景を楽しんだ。

  

  今朝通った上山をはじめとして、阿武隈から奥久慈一帯の山地には随所に穏やかで懐かしい雰囲気の漂う集落があり、山の行き帰りの楽しみになる。


☆おわりに
    元プランに拘らず、天気に合わせて日程を調整した結果、小春日和の山歩きを楽しんだ。
明山はまさに隠れた名山だった。
山の小ささに似合わない充実感が得られる。
夫婦岩と本峰に急峻な登降があるのと、亀ヶ淵近くのルートが荒れて分かり難いのとで一般向けとは言いがたいが、頂上の大展望はここに登った者に授けられる最高のご褒美だ。

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☆明山のルートマップ

    資料に乏しい山なので簡単なルートマップを作成、物好きの向きの参考に供する事にした。

  左はサムネイルでクリックすれば拡大する。
下図としては、国土地理院が閲覧サービスに出している2万5千分1地形図を使った。
そのままのサイズで印刷すると約1万7千分1ほどのスケールになようである。

ご利用は自己責任でお願いしたい。

参考文献: 新ハイキング社、新ハイキング・ペンクラブ著 "阿武隈の山を歩く" H12.12.20 pp61-64