大山北尾根-物見峠入口-宮ヶ瀬
(2003.11.26)



☆期日/山行形式:
2003.11.26 単独、日帰り


☆地形図(2万5千分1): 大山(東京16号-1)、青野原(東京15号-2)、厚木(東京12号-3)

☆まえがき
    
丹沢大山の頂上から西沢ノ頭、ミズヒの頭を経て一ノ沢峠へと延びている北尾根は、以前から気になっていたルートだった。
人が少なくて静かで、森が奇麗だと聞いたので、木の葉が落ちるのを待って出かけてみた。
  ただひとつ、尾根を歩き終えたあとの帰り道をどうするかで、少々悩んだ。 ヤビツ峠に戻るのが一番安直なのだが面白味に欠ける。 山を降りたあとでまた峠まで登り返さなければならないのも嫌だ。
  それ以外だと、黒岩に降りたあと物見峠を越して煤ヶ谷に出るか、そのまま唐沢谷を下って宮ヶ瀬に出るか、物見峠入口に下りて車道を歩き、水無川本谷に架かる塩水橋を回って宮ヶ瀬に出るか、と言う三つの選択肢になる。 いずれの場合も2時間以上も掛かる長途だから少々覚悟がいる。
  いろいろ考えた末、折角の機会だから中津川谷奥の様子を見ることにし、中津川本谷を回って宮ヶ瀬に出る最長ルートを選択した。

  行動計画のあらましは、ヤビツ峠(761)から大山(1251.7)に登ったあと北尾根に入り、西沢ノ頭(1094)、ミズヒの頭(1053)、P913を経て一ノ沢峠(565)まで縦走。 西側の物見峠入口(410)に降りたあと、藤熊川、布川谷から本谷の塩水橋(415)まで歩き、唐沢出合(325)、宮ヶ瀬霊園(305)を経て宮ヶ瀬三又路(315)、宮ヶ瀬バス停へ下山。 バスで本厚木駅に出たあと小田急、東急線経由で家に帰ろうというものだった。

  実際に歩いて見た大山北尾根は、丹沢の各所で見受けるようなオーバーユースによる傷跡がなく、随所に大木が立ち並ぶ自然林が残されていて、気分の良い尾根ルートだった。 二、三箇所、踏跡が不明瞭な部分もあるがルートは全体として分かりやすく、藪は全くない。 ただ、覚悟していたとは言え、物見峠入口から宮ヶ瀬までの車道歩きは、いささか閉口するほど長かった。
  名残りの紅葉に慰められて何とか歩き通しはしたが、最後に休んだ宮ヶ瀬霊園の管理人に言われた通りで、"その歳じゃ歩き過ぎだよ" と思った。

Mt. Fuji over Mt. San-no-tou
大山への登路の上部から三ノ塔の先に富士山が奇麗だった

☆タイムレコード
     宮崎台=中央林間=相模大野=秦野[8:18]=[9:05]ヤビツ峠(9:15)大山(10:30/55)-西沢 ノ頭(11:30)-ミズヒの頭(11:50/12:00)-送電鉄塔先の913m 峰(12:10/15)-一ノ沢峠(12:55/13:00)-物見峠入口(13:30/35)-大洞橋(13:45)-塩水橋(14:25)-唐沢川出合(15:00)-宮ヶ瀬霊園(15:40/16:10)-宮ヶ瀬三又路(16:35)-(16:40)宮ノ平バス停[16:52+5]=[17:50+ 5]本厚木=相模大野=中央林間=宮崎台

☆記録と写真
    電車の乗り継ぎがうまく行って朝一番のヤビツ峠行きバスが出るより30分以上も早く秦野駅に着いた。
この駅は3月の高取山/華厳山以来だから久し振りだ。  時間潰しも兼ねて駅ビルの蕎麦屋に入ったが、寝呆けていたため、選りも選って天玉蕎麦を注文してしまった。  好天に誘われて出てきた人達が多く、バスの時間が近付くと行列ができ、通学の高校生も加わって通路に大勢が立つほど混雑して発車。
  ヤビツ峠が近くなって景色が良くなったあたりから腹具合が変になった。 出掛けに飲んだコーヒと蕎麦の天麸羅は、"半人前胃袋" に厳しすぎたようだ。 峠のトイレに入り、出せるだけのものを出す。 大分良くなったがまだ下腹部がうすら痛いのでかかりつけの医者に処方してもらった下痢止めを飲んだあと、ソロソロ歩き出す。
  イタミツ尾根道は閑散としている。 バスで上がった者の大部分は表尾根の方に行ったようだ。 文句なしの好天気だが、頂上に登り着く前にこれ以上腹具合がおかしくなったら北尾根に入るのは止めたほうが良いだろうと考える。 身体の調子を伺いながらスローペースで登って行ったが春岳山のコルのあたりで先行パーティに追付いた。 視界が開けてきて左手に富士山が見えてきた。 さらにもうひと登りした所にあるガレ場の上縁では丹沢表尾根から主脈の山並み、富士山とその先に並ぶ "南" への広大な展望を楽しんだ(上および下)。
雲ひとつない澄み切った青空の下に広がる山岳展望は、あまりにも何もかも見えすぎて色気がないと思ったほどだった。

  露岩の多いやや急な所を登り切ると右下から下社からの参道が上がってきて合流する。 不規則に傾いて歩き難い石段を上がった所に立つ鳥居を潜ると阿夫利神社の休憩所がある。 さらにもう一段上がると奥社に着く。  まず奥社に賽銭を上げ、今日の無事を祈る。 奥社の横手に張り出した庇の下の空間はこの前雨宿りをした場所だ。  ほんの1、2人しか先着していなくて、あたりは静まり返っていた。 途中で追い越して来た数人を併せても今登っているのはせいぜい10人位のものだろう。 今日は今年で最高の天気だよ、と休憩所の主人が客に言っているのが聞こえた(下左)。
  まだ腹具合がちょっとおかしい。 頂上裏のトイレに入って出せるものを全部押し出す。
奥社脇に戻りながら景色を眺める。 東の相模原から南の湘南海岸方面へ、広大な平野の展望が広がっている。 休憩所の横手からは箱根山から愛鷹山方面への眺めが良かった(下右)。
何度か来ている所なのだが、あらためて大山頂上が稀な展望地だということを認識した。
Top of Mt. Ooyama View of Mt. Hakone and Ashitaka
Entrance of Kitaone route
  胃が要求するようになるまで固形物を食べない事にし、フルーツジュースを少し飲んだあとハードキャンデーを口に入れて北尾根に向った。
  北尾根ルートを示す道標のような物は見当たらなかったので地図と周囲の地形を見比べて見当をつけた方に行って入口を捜す。
  僅かにテレビアンテナの建物の間に小さな切明があってその両側の木の枝に赤テープが下がっていた(左)。
  先のほうを窺うとミズヒの頭らしいピークが見えていたのでまずまずこれに違いないだろうと潅木の間を急降下して行く道に入った。
Quiet buautiful trail
  急で滑りやすい所をひと下りしたあと穏やかな尾根の上に乗った。
所々にコースサインがあるのと、両側の地形から、北尾根ルートに入れたことを確信したが、天気が悪かったら判断が難しかったに違いない。
  穏やかな尾根道を進んで行くあいだ、葉が落ちた木の隙間から左手に丹沢主脈方面、右前方に大山三峰周辺が見えた。
  前方の林の中で何かが動いた。 "ホーイホーイ" と声を掛けて進んで行ったたら出てきたのは動物ではなく、ジャージィ姿の若者だった。
「カモシカか何かと思って声をかけたんだけど悪かったね」、言ってすれ違う。

 下りになると次第に尾根が細まってきた。 危険というほどではないが余所見はできないくらいまで痩せた最低鞍部を過ぎるとミズヒの頭への登りが始まる。
Nisizawa_no_atama
  登りは短く、すぐにやや急な所を登り上げて西沢ノ頭に着いた。
ひっそりした小ピークで、山名を記したプレートと "火の用心" の札が木の枝に掛けられているだけだ(左)。

Mizuhinoatama
  ひと下りし、水溜りがあって山の獣達が好んで集まってきそうな雰囲気の漂う小広い鞍部から登り返すとミズヒの頭の南端に着く。
西側の谷へガレ落ちているせいで木立が疎らになっていて見晴しがよい。
寒桜らしい木が三峰を背景に赤い蕾を膨らませていた(下左)。
三峰は2、3年前に通っている尾根だが、あんなに凸凹の大きな尾根だったのかなぁ、と思う。

  ミズヒの頭の先で尾根が左に折れ曲がる。
ほぼ曲がりきった所で歩いて来た方を振り返ると北尾根の起伏の奥の方にアンテナの立つ大山の頂上が高かった(下右)。
Kannzakura and Mitumine Look back Ooyama
P913 Y branch sign
  林の中をやや急に下り、送電鉄塔の脇を過ぎて林に入った所に分岐点を示す道標が立っていた。
左に行けば札掛の上手の地獄沢出合付近で県道に出られるようだ。 ヤビツ峠と繋げてこの尾根を歩くのに便利だろう。
  今日は一ノ沢峠に向うので右手の道に入る。
こちらは踏跡が薄い。 まわりの樹木の密度が上がって視界が狭まり、少々単調になる。 前回の源次郎岳から恩若峰へのルートと似通った雰囲気がある。
  所々でルートが分かり難くなるが落ち着いて周りを注意深く見回せば黄/赤のビニールテープのコースサインが見付かる。
Ichi_no_sawa_touge pass
  まだかまだかと言う感じで進んで行くと右斜め前方に送電鉄塔が見えた。 一ノ沢峠が近くなっている証拠だ。

  桧に被われたうす暗い鞍部からひと登りして小ピークを乗越すと前方に野外テーブルと道標の立つ一ノ沢峠が見えた。
  殆ど何も食べられなかった割には、ここまで順調に歩いてこられた。
  宮ヶ瀬のバスの時間を計算してみると何とか辻褄が合いそうだ。 計画通り中津川本谷を回って帰ることにした。

Bridge across Fujikumas_gawa river
  崩壊気味の沢窪上部に架けられた桟道を渡って小尾根の上に乗り、ジグザグに下って沢に入る。

  湿気が多く、蛭とマムシが居そうな所だがこの季節なら心配ない。

  流れを渡る所で水筒の水を汲み替えたあと僅か進んだ所で下のほうに藤熊川の流れが見えてきた。
  本流に沿って上流方向に少し進んだ所に立派な鉄橋が架かっていた(左)。
川は昨日の雨でかなり増水している様子だった。
Exit of the route
  対岸に渡って杉林の中をひと登りすると車道に出る。
  出口には天然記念物になっている丹沢のヒバ林の解説を記した看板が立てられていた(左)。

  宮ヶ瀬へ向けて長い車道歩きを始める。
ウイークデイだから静かだろうと思っていたのは間違いで、頻繁にドライブの車が走ってくる。

Autumnal leaves in Nakatu_gawa valley
  大洞橋を過ぎて塩水橋の方へ尾根を回りこんで行く手前あたりでは対岸の山の斜面に散り残っている紅葉が傾きかけた日を浴びて非常に奇麗だった。
  バスの時間が気になるので、トレーニングにもなるだろうと思って休まずに歩きつづけているうちに腹具合が良くなってきて胃袋が食べ物を欲しがり始めた。

  特段急いだ訳ではなかったが標準タイムより大分早いペースで車道歩きができ、予想より早く宮ヶ瀬霊園に着いた(下左)。
  ここからバスが通る宮ヶ瀬三又路まで20分見込めば充分だから、宮ヶ瀬始発4時50分のバスが宮ヶ瀬三又路を通る見込み時間まで約1時間の余裕がある。
Miyagase_reien cemetary
  霊園の門から覗きこむと紅葉が奇麗だったので中に入り、すぐ先の石段に腰を下ろす。
  空腹を癒すため、チーズパンを食べていると管理人が作業から戻って来た。
大柄の虎猫がそのあとについて来たが、食べ物の匂いを嗅ぎつけて鳴き声を上げた。 食べたいのだが見知らぬ人が怖くて近づけないといった風体だ。
  小さな片を管理人に渡して食べさしてもらう。
パンが終わってチーズを食べていたらまた猫が道の向こう側で鳴いた。
  今度は、餌皿にひと片乗せてやる。
Valley water flowing into Miyagase dam lake   飲み食いをして空腹はなくなったがそれと引き換えに濡れた着物が冷えて寒くなった。  歩いているあいだは手袋はしても体幹は汗ばむ程だったのだが、日が翳った谷間は気温の下がり方が早い。
  バスにはまだ早すぎるのだが、これ以上停まっていて身体を冷すと筋肉が頚痙したり風邪気味になったり、具合の悪い事が起こりそうな気がしてきたのでザックを背負う。
  歩き出すと間もなく、ダム湖のヘッドウオータが見えてきた。 上流からは豊かな水量が流れ下ってきている(左)。

  トンネルを抜けると間もなく宮ヶ瀬三又路だ。

ここでバスを待つとまた時間が長すぎて身体が冷えてしまう。
 下手の宮ヶ瀬集落に向けてボツボツ歩き続けていたら十字路の手前にベンチのあるバス停があった。

  秋の日は釣瓶落としというたとえの通り、バスを待っている僅かな時間のうちにあたりが暗くなった。 定刻より5分あまり遅れてバスが来たときにはもう真っ暗と言ってよいほどになっていた。
  乗り込んでみると、数名、観光客と山帰りとが乗っていた。
  いつものことだが、飯山のあたりからは地元の人達が次々に乗ってきて、厚木の市街に掛かる頃には通路に人が立つ程になった。
☆おわりに
    今回の山行では、丹沢西北部と遜色のない自然豊な領域がアプローチの便の良い東丹沢にも残されている事を知った。
送電鉄塔の近くから札掛上手に通じているルートと組み合わせればヤビツ峠を起点に楽に歩けるだろうから雪のある時季や新緑の季節に歩くと良いだろう。
また日向、七沢方面からの登路と繋げればなかなか手応えのあるコース設定ができそうだ。