鶏頂山(高原山)スキー山行 (2003.3.24-25)


装備についてのメモ(ジルブレッタの静音化とズッコケ難い伸縮ストック) が末尾にあります。

☆期日/山行形式: 2003.3.23-24 ロッジ泊 山スキー利用 単独

☆地形図(2万5千分1): 高原山(日光3号-4)、川治(日光7号-2)

☆まえがき
    四十年あまりも昔、会社の慰安旅行で鬼怒川温泉に行った時、有志とともに鶏頂山に登ろうとした事があった。
  天気が悪く霧で何も見えない中を弁天沼とおぼしい所まで登ったが夕方の宴会に間に合う時間に戻ると言う約束で貰った時間の範囲内での登頂は無理だと判断し、それ以上進むのを止めて宿に帰った。
  さらにひと昔前、ゴールデンウイークに山スキーを担いで尾瀬に行った。 燧岳に登った日には 好天に恵まれ、頂上から360度の展望を楽しんだ。
近くに大きい山があって頂稜のすぐ下を車道が通っているのが見えたので20万分1地形図で確認したら高原山(鶏頂山/釈迦ヶ岳)だった。 山は大きいが高さは1750m 内外と大したことはないし、場所もそんなに遠くもないからいつでも行けると思っているうちに、交通の便が良くなり過ぎて泊まりがけで登る者が居なくなったためか登山口の鶏頂山荘が休業してしまい、塩原と鬼怒川を繋ぐバスの便も極端に少なくなって、近いくせに行き難い山になってしまった。
  今年も春山シーズンになった。 一度で良いからスキー山行をしたいとあれこれ行き先を物色しているうちに、高原山が浮かび上がってきた。 12月中旬から3月末までのスキーシーズ中は那須塩原あるいは西那須野から塩原温泉を経て高原山の山上にあるハンターマウンテンスキー場までバスが運行されている。 また鶏頂山登山口から3Km ほど離れた所にあるゴルフ場が冬の間の副業としてクロカンスキーやスノーモービルで遊ぶ客を呼び、それに伴って手軽な宿泊サービスを提供しているという事が分かった。 高原山は近くて安上がりな山スキーの穴場だったと言う訳だ。
  計画のあらましは、初日に東北新幹線那須塩原駅から塩原温泉(560)経由、ハンター マウンテン 塩原スキー場(1130)へ上がり、その1Km ほど先にあるエーデルワイス スキーリゾート(1200) のリフトの終点(1480) から弁天沼(1517) へ上がって偵察したのち鶏頂山スキー場の末端(1240)まで滑降。 鶏頂開拓集落の先にあるきぬがわ高原コテージ(1200)まで行って宿泊。 二日目は鶏頂山スキー場(1290)に戻ってリフト終点(1480)まで上がり、弁天沼(1517)付近にスキーをデポして鶏頂山(1765)に登頂。 条件が良ければ頂稜を辿って御岳山(1745)経由、釈迦ヶ岳(1794.9)にも登頂して往路を戻ろうと言うもので、春に三日の晴れなしと言われる空模様の周期と春分の日の連休の混雑の回避とを睨みあわせて山行日を設定した。

<タイムレコード>
3月23日
    宮崎台[6:44]=[7:09]渋谷[7:27]=[9:21]宇都宮[9:22]=[10:05]那須塩原[10:20 \1140]=[11:05]塩原温泉[11:20]=(タクシー\4930)=[11:40]エーデルワイス スキーリゾート(12:10)-ゲレンデ中間点で鶏頂山スキー場にトラバース(12:30/35)-枯木沼(12:50/55)-大沼分岐点(13:30)-弁天沼(13:55/14:10)-鶏頂山スキー場最上部(14:40/シールを剥ぐ/50)-鶏頂山荘(休業中 15:15/30)-(16:20)きぬがわ高原カントリークラブ{仮眠室 \2100+食費}
3月24日
    きぬがわ高原CC(8:00)=(8:10 頃から車便乗)=エーデルワイススキー場(8:30/50)=第一リフト(共通3回券 \1200)=枯木リフト=鶏頂山スキー場最上部(9:00)-大沼分岐(9:10)-弁天沼(9:35/45)-稜線(10:15/20)-鶏頂山頂上(10:40/11:00)-弁天沼(11:25/35)-鶏頂山スキー場最上部(12:00/10)-日塩もみじライン脇の石鳥居(12:40/55)-エーデルワイス スキー場(13:10/14:00)-(14:30)ハンターマウンテン スキー場[14:50 \1490]=[15:20]塩原温泉[15:30]=[16:15]西那須野[16:44]=[19:08]上野=三越前=宮崎台

☆詳しい記録
3月23日
    最初の計画では西那須野駅9:05発のバスに間に合うよう6時前の電車で出発することにしていたのだが最近の宵っ張り朝寝癖で弱気になり、前の晩に急遽出発時間を繰り下げることにした。 JRの時刻表を調べて見ると大船から宇都宮まで直通する湘南新宿ラインの電車が7:26に渋谷駅を通過する。 塩原から先のバスが不明なのが問題だが最悪午後のバスで上がれば、宿舎までは行けるから二日目の朝に山に登れると割り切った。
  5時半過ぎに起き出し、テルモスにホットレモンを詰めて家を出る。 暖かな朝で空は奇麗に晴れ上がっている。 アレッと思うほどスキーが重い。 駅への近道になっている裏山の肩を乗越すのに息が切れる。 早目に渋谷駅に行ったため宇都宮行きが来るまで暫く待つこととなったが人の多い首都圏の駅でスキーを持って乗り換えをせずに済むのはありがたい。
  小山のあたりから山が見えてきたが春霞でボヤけている。 那須塩原に着いて駅前広場に出ると正面に塩原温泉行きバスが停まっていた。 乗り込むと早速ドライバーにスキー場行きの便を尋ねて見た。 午後2時過ぎまでないだろうという返事で朝寝坊の報いを受ける事となったがともかく塩原温泉まで行かなければどうともならない。 バスはほんの僅かな客を乗せただけで発車。 家並みが断続する所を暫く走って行くと山裾に "アグリパル" と言う大きな常設イベントがあった。 連休最終日のためか沢山のファミリードライブの車で賑わっていた。 ここで西那須野から来たバスと待ち合わせる。 5,6人の乗り継ぎ客が移って来て乗客が増え、10人ほどに増えた。
  坂を上がるとすぐに谷間に入った。 左下にダム湖を見下ろして谷間に分け入って行く。 美しい渓谷になった。 狭い谷なのに次から次へと集落が現れる。 古くから有名な温泉保養地ではあるが想像以上に大きいのに驚く。 バスターミナルは温泉郷の奥まった所にあった。 スキー場行きが出るまで3時間もある。 天気も良いのでここでグズグズしているのはもったいない。 思い切ってタクシーで上がって見る事にした。
ひと走りすると背後に日留賀岳が姿をあらわした。 ドライバーに聞いてみると時々登りに来る者がいて尾根裾の農家の脇まで乗せていると言う。 登り5時間、下り4時間ほどのロングルートだが往復にタクシーを使えば合計で1時間あまり短縮できる。 湯元塩原を過ぎたあたりから雪山になった。 道路だけ乾いているのが不自然なので尋ねてみると除雪車で雪掻きをした上に融雪剤を撒いて通年車が通れるようにしているのだそうだ。


どうせ時間を買ったのだからと割り切って、バス終点のあるハンターマウンテンを通り越し、エーデルワイススキー場まで行く。 連休最終日だけに大勢のスキーヤー、ボーダーが詰めかけ、大賑わいになっていた。
早起きのせいでちょっと腹具合がおかしくなっていたのでまずトイレを使って身体を軽くする。 シールを貼って来たスキーを履いて歩き出すとすぐに南隣の明神山にあるハンターマウンテン スキー場が見えてきた(左)。
このスキーで歩くのは2年振り、ヒョッとすると3年振りの筈だ。 シールを利かせながらヒールフリーで登って行く感触はなかなか気持ちの良いものだ。 ちょっとどうかなと思う斜面も問題なく登れ、むしろ息が上がらないようにするよう注意が必要だった。


ゲレンデの南端のバーンを登って行くと左に曲がる所に林の中から出て来たトレールがあった。 林の入り口で一服したあと、中に分け入ったらすぐに林の裏側にある鶏頂山スキー場のバーンに出た。 こちらには誰もいなくて坪足歩行のトレースが一人分とシュプールが一本あるだけだった。
まもなく枯木沼に着いた。 鳥居と道標が立っていて雪原の先の方に枯木沼のレストハウスとリフトが見える。 指導標の脇に行って見ると坪足のほかに輪カンで歩いたトレースが右手の林の中に向かっている。





林間に入って暫く緩く登ると鶏頂山スキー場最上部のリフト終点に着く。 リフトは止まっていて誰もいないが左手の林の裏側には枯木リフトの終点があってスキーヤーの姿がちらほら見えている。
左手の杉の木に "鶏頂山頂上" と記したやや古い赤地の道標が掛けられている(左)。
  緩やかに上下しながら進んで行くと雪面から僅かに頭を出している石柱があった。 雪との隙間を覗く込むと "大" の字が読めた。 大沼への分岐点だ。 また杉林の中に入って坂を登って行くとゲレンデの音が聞こえなくなってあたりが静かになった。 登山道は幅3m 程の切り開きになっている。 積雪量は少なくとも6、70cm 位はあって壷足、輪カンそれぞれ一人分のトレースが続いている。 道の真中の雪面が凹んでいるのは最近の降雪の前に何人かが通ったラッセルの名残りに違いない。



緩い下りになると間もなく正面に鶏頂山の頂上を見上げる小雪原に出た。
 半分雪に埋もれた鳥居が立ち、石祠と鐘と石碑が頭を出している。 釈迦ヶ岳への分岐と思われる所にそれらしい目印があったがそちらへ入ったものはいないようでトレースが無い。










雪原にビニールシートを広げて腰を降ろす。 ここから見上げる鶏頂山の頂上部はたっぷり雪が着いてはいるが天辺まで樹木に被われ何となくもっさりした感だ(左)。
  すぐにも登れそうな雰囲気なのだが往復するには少なくとも1時間半は掛かるだろう。 登頂は明日の楽しみにする。
  リフトでエーデルワイスのかなり上まで上がれる事が分かり、明日よほど天気が悪くならないかぎり登頂できるだろうと言う見通しが立った。 満足した気分で反転し、今夜の泊り場に向かう。



  スキー場上部までの林間は一部に登りもあるのでシールは貼ったままで、ヒールを固定したりフリーにしたりしながら進む。 購入当時としては異常に短かい、162cm しかないスキーなのだが幅の狭い林間ルートで半制動を掛けながら滑るのにちょうど良い。 ザックの重さは少々こたえるが久し振りの林間滑走に気分を良くしてゲレンデの上端部に出た。 目の前には無人の滑走バーンが広がっている。 ザックをおろし、テルモスのホットレモンで喉を潤しながらシールを剥がす。



広広した無人の滑走バーンはどこでも勝手に滑れるまことに美味しい状態になっているのだが表面がクラストした雪が融けかかって滑りが悪い。 久し振りにザックを背負っての滑走で足腰の弱体化が露呈し、早い体重移動ができないため、高速ターンができない。 ストック制動ボーゲンで何とかごまかしたが突然負荷を掛けられた足の筋肉が悲鳴をあげる。 プラブーツだったらもう少しマシに滑れるだろうが今は耐えるしかない。
すぐに前方の視界が開けてきて前方に日留賀岳、ゲレンデの下の方に鶏頂山荘の大きな建物が見えてきた(左)。


 さらにひと滑りして建物の横手まで下り、近寄って様子を見たが無人で気持ちが悪いくらい静まりかえっている。 左手の林の中からかすかに女性の放送の声が聞こえて来た。 道もありそうな感じだったのでのでそちら側のゲートの外まで行って見たらコース案内の看板が立っていて、日塩もみじラインに出るには降りて来た所に戻って公衆トイレの手前から車道を下ったほうが早いことが分かった。
  道路への出口には大きな石造りの鳥居が立ち、鶏頂山登山口を示す道標が立っている。 道端の雪の上で小休止しながらザックの両側にスキーを取り付ける。 スキーの付いたザックはズッシリと重く腰に来る。 車道を鬼怒川の方向に歩き始めるとすぐの所に鶏頂開拓集落への入り口があった。 ここを入っても今夜の泊り場に行けそうな気がしたが予約受け付けの女性が教えてくれた道とは違っている様だ。 もう少し先まで進んで見る事にする。 ゲレンデで聞こえた拡声器の女性の声が急に大きくなってきた。 広い道路が分岐している所に拡声器があって温泉入浴やロッジ宿泊の呼び込みをしている。 この道に入って進むとすぐに貯水池がある。 その横手から台地状になった尾根の背に上がると広大な雪野原が現れた。 クロスカントリー スキーには最適な地形だがあらためてスキーを履く元気は残っていないのでトボトボと車道を歩き続ける。 突然酷使されて苦情を並べ立てているた筋肉をなだめながら坂を登り上げた所で道端の雪の上にザックを下ろす。


歩いて来た方を振り返ると正面の農場の雪原の先のほうに穏やかな姿をした鶏頂山、左手やや遠くにハンターマウンテンスキー場のある明神岳が並んでいる。 その左手には日留賀岳から男鹿岳への連なりが秀麗だ。
やや下り気味に進んで行くと数棟のコテージが見えて来た。 奥手の方にゴルフ場のクラブハウスがあった。
  玄関でバギーの手入れをしている男がいたので尋ねたら予約をした仮泊室はこの建物の中だと言う。 広いロビーは日帰り入浴の家族連れで賑わっている。 仮泊室はゴルフシーズンにはロッカー室として使われているカーペット敷きのスペースをロッカーで仕切った物だった。 シーズン最後の連休も終わってほとんど宿泊客がなく、一人で一区画を占領出来たため、それなりにゆっくりした泊まりができた。 12月中旬から3月末までだけの営業だが24時間いつでも入れる温泉があって朝食付きの宿泊費が2600円、夕食はカフェテリヤの定食メニューが1000円だから民宿の半分で済んでしまう。
夕食の牡蠣フライ定食はあまり美味しくなかったが温泉はとても良かった。 マットレスと毛布2枚で寝たが暖房がよく効いていて暖かく、むしろ喉が渇いて目が覚めたほどだった。

3月24日
早寝のお蔭で6時前に目が覚めた。 ロビーに電気ポットが置いてあったので目覚ましにコーヒを淹れて飲む。 建物の外に穏やかな朝日が射してきた。 スキーとザックの準備を済ませて7時から朝食。 海苔、卵、納豆に味噌汁など、極く標準的な和食定食だ。 ご常連らしい熟年スキーヤーが出て来た。 夜遅く着いて泊まったらしい。 カフェテリアのホストが "はい、薬です" と言いながらビールを出した。 30分ほど掛けた食事を終えてひと休みし、トイレを使って外に出た。
昨夜のテレビの天気予報は4月並みの暖かな晴れになるだろうと言っていたが、その通りで標高1200m の高所に居るのに全く寒さを感じない。 シールを貼ったスキーをザックの両側に取り付けて歩き出す。 昨日の偵察で最寄りの鶏頂山スキー場は閉鎖されてリフトが使えないが隣のエーデルワイスのリフトを乗り継げば大沼分岐点のすぐ近くまで行ける事が分かったのでそこまで歩く事にした。 1時間ほど掛かるだろうがそのあとの登りの1時間程の分をリフトで上がれる。
朝日に照らされた山並みを見ながら歩いていると後ろから来た車が横に停まった。 朝食で一緒だった熟年男が運転していて「良かったら乗りませんか」と言う。 ありがたくご好意を受ける事にした。 大きなワンボックスカーなのでスキーが付いたままのザックを後のドアから入れて助手席に乗り込む。 熟年男は千葉の佐原からで、ハンターマウンテンで滑りに来たのだと言う。 山やスキーの話をしているうちにあっという間にエーデルワイスに着いた。
不必要な物をセンターハウスのコインロッカに預け、必要なものだけをサブザックに入れて外に出る。 リフト券売り場で聞いてみると第2クワッドリフトは休止しているため一番左の第1クワッドリフトで上がって右手に少し降りれば枯木ペアリフトの乗り場だと教えてくれた。 1200円の3回券を買い、「気をつけていってらっしゃい」という売り子の声を背にリフト乗り場に行く。 シールを貼ったスキーは乗るときより降りるときが難しい。 タイミングを計ってさっさと歩き出さないと背中を腰掛にどやされる事となる。 快適そうな滑走バーンを"シールのお蔭で"シブシブ滑って枯木リフトの乗り場に行く。 ここにはレストハウスがあって休憩と飲食ができる。
ロッカーの中にカメラを置き忘れて来た事に気がついた。 ここまで来てしまったのに戻る気にはなれない。 昨日、弁天沼までの景色は写してあるのだから今日は景色を肉眼でジックリ眺めようと考える。 リフト終点の先の林のすぐ裏が鶏頂山スキー場の最上部の広場だった。 昨日通って勝手が分かっているのでそのまま杉林の中に入る。 昨日の午後より雪がしまっていてシールの滑りが良く歩きやすい。 調子に乗って進んで行くうちウッカリ大沼分岐の標石に気がつかずに通り過ぎ、林に入り掛かった所から振り返って確認する事となった。 杉林の中をひと登りしたあと僅かに下り気味に進んで行った所が弁天沼だ。 昨日に続いて2回目で、お馴染みの場所となったがなかなか気分の良い所だ。 雪が積もった春の山は鳥の声がない。 昨日は時々木の枝から雪が落ちていたが今朝はそれもなく辺りを静寂が支配している。 "頂上往復中です" と記したタグを付けてスキーをデポして頂上に向かう。
明るい岳樺の林を抜け、針葉樹の混じった所まで行くと次第に傾斜が強まってくる。 北斜面であるためか1m2,30cm 位は積もっている様だ。 トレースはかなり明瞭で、壷足の方はビブラムソールの革靴だったらしいことが分かった。 無雪期より積雪期の方がかえって登り易くなる山なのだが登りに来る者は少ない様だ。 車道が通ったため登山の対象としての興味が削がれてしまったのかも知れない。 沢窪状の所から左手の山腹に移り、やや急な登りを突破すると稜線に出る。 "右鶏頂山、左は釈迦ヶ岳" と記した道標が雪から顔を出していたが釈迦ヶ岳の方へのトレースはない。 山の雰囲気は女峰山や男体山とよく似ていて、爆裂火口の跡と言われる急峻な谷の向かい側に釈迦ヶ岳から西平岳へ頂稜が連なっている。 右手の尾根のトレースを追って鶏頂山頂上を目指す。 尾根の左側が崖で右側も結構急な斜面になっているため通れる所が制限され、無雪期には頭の上にある筈の潅木の枝がちょうど顔のあたりに来て眼鏡や帽子を取れれそうになって歩き難い。 近くに誰も居ない雪山の中だがもうすぐ頂上なのだからと自分を励ましながら登り続ける。 "輪カン" も "革靴" もなかなか達者だった様で、立ち止まった様子もなく規則的なピッチを刻んでいる。 平野が見える筈の左手は春霞に隠されているが右手はまずまずの眺めで足許に鶏頂開拓の雪野原、その先の方に日光の山々が雪姿で並んでいる。 尾根の幅が広がり、ルートが右手に曲がると間もなく頂上の一角だった。
平らで広い頂上広場はまん中に丸太の鳥居が立ち、その奥の方に "神社" と言ったほうが当っているほどの大きさの "祠" がある。 軒下の鈴の綱は末端が雪で固定されていたがなんとか振り回して鈴を鳴らして礼拝する。 右脇の柱に吊り下げられている "鐘" も木槌で鳴らした。 社殿の先は平野を見渡す広場になっているが霞に覆われて良く見えない。 登って来た方に戻り、古株の脇の雪の上にシートを広げて腰を下ろす。
少々霞んでいて山の重なりがはっきりしない所はあるのだが広大な山岳展望が広がっている。 この方向から山を見るのは初めで新鮮な眺めだ。 正面は日光連山で、女峰山が大きい。 その奥手の右の方に連なっている白い山々は帝釈山から荒海山への県境だろう。 隣の日留賀岳から男鹿岳への頂稜が魅力的だ。


カメラを忘れたため2日目の写真がありません。
退屈凌ぎに、カシバードによる鶏頂山頂上の展望シミュレーション図をご覧下さい
使用プログラムはカシミール3D Ver 7.6 です。
実際には雲が出ていたり霞が掛かっていたりでこれほど良くは見えた訳ではありませんが鶏頂山の頂上は間違いなく非常に展望の良い所です。

       
(クリックすると拡大します)



(南西から北西に掛けて日光、尾瀬周辺から野岩国境稜線)


(北西から北東に掛けて野岩国境稜線、日留賀岳/男鹿岳から那須岳)


たっぷり積もった雪の中なのに暖かな日差しを浴びながら寛いで居られるのは春山の醍醐味だ。 心ゆくまで楽しんだあと腰を上げる。 雪ルートの下りは登りに比べると遥かに楽だ。 キックステップの要領が分かっていれば足の置き場を探す手間が掛からず、雪がクッションになって膝や腰の負担が少ない。 楽に歩いたにも関わらず短時間で弁天池に戻った。
無事に登頂できた事を感謝して賽銭を上げようと石祠の前の雪の上に片膝を着いたらポコンと雪面が凹み、祠の屋根に額をゴツンとぶつけ、痛い目に遇った。 「歳なんだからあんまり調子に乗るんじゃないよ」と、弁天様が忠告してくれたのかも...。
昨日と同様シールを張ったままのスキーを履いて帰途に就く。 気温が上がったため締め具とスキーの間に入った雪が融け、ヒールの開放と固定がストックで突くだけで自在にできたのに助かった。 メイプルヒルの最上部に出た所でシールを剥ぎ、 広い無人のバーンの滑降を始める。 昨日より滑走感覚が戻っているのとザックが軽いのとで大分楽だが表面のクラストが融け掛かった雪は抵抗が多く、滑りが悪い。 2度エーデルワイスのバーンと接する所を通ったが昨日出てきた所を通って行こうと考えて通過したのは失敗で、あっという間に下の方まで行ってしまった。 横手の車道のような所へ入っていってみたらリフトの終点の脇に "枯木沼、鶏頂山頂上" と記した道標があったので元に戻り、そのまま下り続けて昨日と同じ鶏頂山荘の脇に降りた。
石鳥居の脇でスキーを脱ぎ、林檎を半分食べたあとX字に組んだスキーをザックに乗せて車道を歩き、約15分でエーデルワイスに戻った。 十分な時間の余裕があるのでカフェテリヤに入ったがあまり食欲がないのでグレープフルーツジュースを飲むだけにする。 引き続き休みながらザックのパッキングをしたが体が冷えるにつれて足の甲の先の方や土踏まずなど、普段の山登りとは違う変な所に頚痙が起こった。 局所的なのであまり支障はなかったが気持ちが悪いので消炎鎮痛剤を服む。
バスが出るハンターマウンテンまでの車道歩きを約30分と予想して14時丁度に歩き出した。 スキーを含めて持ち物全部を背負うとやっぱり重いなぁと感じる。 予測通り14時30分にハンターマウンテンのバス停ポストに着いた。
カメラを仕舞い、スキーとストックを纏め終えた所にバスが来た。 下から登ってきたオバサンが降りたあとへ入れ代わりに乗り込む。 乗り込んできた客が山支度なのに剥き身のスキーを持った変な風体なのを見てドライバが声を掛けてきた。 鶏頂山に登ってきたと言うと一瞬物好きだなぁという顔をしたがすぐに「雪のない時期には私らも登りますけどね」、と言って調子をあわせてくれた。
発車真近かにスノボーの若い娘さん二人、その後から同じくボードを持った青年が乗り込んできた。 塩原温泉で乗り継いで西那須野駅に行く。 快速電車が出るまで30分ほどの待ち時間がある。 腹具合が落ち着いてきたのでラーメンを食べる。 在来線は少々時間が掛かったが、ともかく乗り継ぎなしで上野まで帰れたのがありがたかった。


☆装備についてのメモ

    今回は久振りにジルブレッタ404締め具付きジュラ グラン レ(162cm)を担ぎ出した。
去年、短くて軽いから取り回しが楽だろうと期待してロシニョールのショートスキーを入手し、高ボッチ山に持って行ったが期待外れだったからだ。  シール歩行は問題なかったが滑降時の重心の前後移動が難しく、狭い所で有効な開脚系の制動技術や急斜面での横滑りがやりにくかった。

  ジルブレッタのスキーは 10年以上もの間あちこちで本番をやって来た古強者で、もともとは Lowa のプラブーツと組み合わせていたのだが中級山岳の頂上ピストンに二重プラブーツはちょっと大げさすぎるし、深めに作られているため足首が拘束され、スキーのエッジングが楽な反面歩き難い。
  今回は冬常用の革登山靴に合わせてみた。 この靴は四谷のタカハシに作って貰った浅めの靴で、ガッチリして重いが非常に歩きやすい。 スキーの操作には向いていないが何らかの理由で壷足歩行をする事になっても安心だ。
ジルブレッタが普通の登山靴をシッカリ保持できるかどうか、一抹の不安はあったが弱った足腰ではおとなしい滑りしかできなかったせいか滑走中に外れてしまうような事もなく、マズマズ実用になりそうだと思った。

<ジルブレッタの静音化>
  ジルブレッタにはヒールフリーで歩くときにカタカタ音がするという欠点(?)がある。
山の中を静かに歩きたいと考え、DIYショップで丸いスポンジパッドを買って来て踏み板の裏に貼ってみたら効果はてきめんで全く音が出なくなった。
1日半使って分かったことは、スキーと締め具の間に入った雪が固まった時にヒールクランプがやり難くなるという事はあるが耐久性に問題はなさそうだ。




(左の写真の下側は踏み板の裏側が見えるよう反転してあります。
黒く丸い部分が今回試したクッションです。
直径4cm 厚さ2mm のウレタンスポンジで片面に接着剤が塗布されています。)



<ズッコケ難い伸縮ストック>
  もうひとつ、昨年末に登山用具店で見つけたブラックダイヤモンドのフリックロック式ストックを始めて山に持ち込んだ。 梃子仕掛けでパイプを締めつけて固定するようになっている。 従来のねじ拡張式楔は、手袋をしていると滑ってシッカリ締めつけられなくて滑っている時にズッコケたり、内部に水が入ると楔がスリップして締められなくなったりする欠点がある。 フリップロック式ならこれらの不具合がないのではないかと思って買込んだ。 今回は天気が良くて暖かかったため本当のところはまだ分からないがほぼ期待通りの性能はあるように感じた。





(ブラックダイヤモンド製ストックのフリックロック部。 下が解放状態で下のほうに伸びている梃子を軸に捲きつけるように回転すると上の状態になって固定する。
締め付け力はねじで各自調整するようになっている)






☆おわりに
    昨春の高ボッチ山/鉢伏山は寡雪のため予想外の "雪藪漕ぎ" を強いられたことと、ショートスキーの性能不足とで途中敗退をしたが今年の春山スキーは "やっぱり頼りになる古女房" と、たっぷりの積雪とに助けられてほぼ目標を達成。 "ミニ版" 山行ながら春山の醍醐味を味わう事ができた。また、高原山とその周辺の概況が頭に入り、頂上からの展望が非常に優れている事も分かった。
今後、積雪期だけでなく、モミジの時期を中心に無雪期山行も何度か行なってみたいと思っている。