北の乗鞍、栂池-風吹大池-蓮華温泉 (2007.9.19-21)



☆期日/山行形式:
2007年9月19−21日 山小屋利用2泊3日、単独

☆地形図(2万5千分1): 白馬岳(富山4号-3)、越後平岩(富山3号-4)

☆まえがき
    7月と8月は秋田の山に行き、数々の美景に巡り会ったが、そのあと、9月の前半に厳しい残暑が続いたおかげで夏バテ気味になった。
暑くて散歩をする気にもなれないまま家に篭っていたが、このままでは足腰が衰え、山歩きもおぼつかない状態になってしまいかねない。

  厳しいロングルートは無理だろうが、いくらかは新味がある所をと考えた末、北の乗鞍岳、風吹大池のまわりの未踏ルートをなぞりに行くこととした。

  栂池から天狗原に上がって千国尾根を辿り、風吹大池まで行って小屋に宿泊。
翌日は笹目尾根を辿って蓮華温泉に下るルートを2泊3日で歩こうという超スローなノンビリ行程である。

  幸い、3日続きの好天と快適な泊まり場に恵まれ、素晴らしい展望の山旅となった。

栂池から天狗原へ登る途中で眺めた白馬から後立山連峰    (画像をクリックすると拡大します)

☆行動記録とルートの状況


9月19日
<タイム記録>

    宮崎台=長津田=八王子[8:03]=(アズサ#3)=[11:27]白馬[11:40]=(バス)=[12:03]栂池高原(12:10)=[ゴンドラ+ロープウエイ \1720]=(12:45)栂池平-(12:55)村営栂池山荘(13:30)-旧栂池ヒュッテ(13:35/45)-浮島湿原周回路(14:30/55)-ビジターセンター(15:45/16:15)-(15:20)村営栂池山荘{泊}

◆朝8時過ぎに八王子を出る特急アズサで大糸線白馬駅に行き、路線バスとロープウエイを乗り継いで、午後早く栂池に上がった。
 天気予報は晴れだったが車窓から見上げた後立山連峰の頂稜部はすべて雲の中だった。
山の上はどんな具合かと心配していたが、ロープウエイの山頂駅はギリギリ雲の層の上で、頭の上には真っ青な空が広がり、爽やかな風が吹いていた。

  村営山荘にチェックインしたあと、入口脇のレストランで蕎麦を食べ栂池自然園に行った。
無雪期の栂池を見るのははじめてだ。


(クリックすると歴史が読めます)
  ビジターセンターの玄関が自然園のゲートを兼ねている。
そこを通り抜けたすぐ裏側に旧栂池ヒュッテが立っていた。

  学生時代最後の春休みにこの小屋に入ったら、2日続きのドカ雪に閉じ込められそうになり、3日目の早朝から、スキーを履いても腰のあたりまで埋まる深雪から脱出するのに大苦戦した。

  入口土間が展示スペースになっていて、壁に昔の山スキーの装備が展示されていた。
小屋の起源は大正年間だが、今残っているのは昭和8年に建てられたものだという。
思い出深い小屋との50年振りの再会に感激した。

  栂池はすでに草紅葉になっていた。
広広とした高原状の地形に敷かれた木道の先に白馬連峰が立ち並んでいた。


  次々に現われる湿原を眺めながら進んで行くと徐々に高度が上がり、新しい視野が得られる。
高みから振り返ると谷から押し上げてくる霧の縁にヒュッテの赤い屋根が見え隠れしていた。

  一番奥にある展望湿原まで行って白馬大雪渓を眺めたいと思ったが時間が遅目だったのと霧が出て来たのとで諦め、浮島湿原を周回して帰った。

  浮島湿原は池塘のある大き目の湿原で、寄せてくる霧で幽邃な雰囲気を醸していた。

  湿原の植物を撮るため古物の重い三脚と望遠マクロレンズを担ぎ出したら、ザックの重さが14Kg にもなった。
サブザックで運んできたが、クロマメノキの実くらいしか撮る物がなかった。

  4時過ぎに入口に戻った。
もう一度旧ヒュッテを見ようとしたがもう戸に鍵が掛けられていて中に入れなかった。
ビジターセンターの方でも掃除が始まっていたがまだ開いていて展示を見ることができた。

  この夜は村営栂池山荘に泊まった。
左の様にレストハウスを兼ねた大きな建物で、二階は前手のテラス以外すべて客室だった。
時期が中途半端で週日だったせいかほかに宿泊者がなく、寂しいくらい静かな宿りだった。
経費節減のためか、部屋のテレビも撤去され、特段やる事もないので早い時間に寝た。

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9月20日
<タイム記録>

    栂池山荘(7:50)-小休止(8:25/30)-天狗原(9:25/40)-風吹大池分岐(9:50)-pk1964(10:50/55)-25/30標識(11:45/50)-蓮華温泉分岐(12:10)-風吹大池/風吹山荘(12:30/13:50)-風吹大池池尻(14:15)-風吹の神ノ田圃(14:35/45)-(15:20)風吹山荘{泊}

◆眠り足りて夜明けに目が覚めた。
窓の外は雲ひとつない快晴だ。
例のごとくコーヒを淹れて飲んでいると日が昇ってきた。
テラスに出てみると、白馬連峰がモルゲンロートに輝いていた。
モルゲンロートの白馬連峰    (画像をクリックすると拡大します)


  風吹大池までなら半日で楽勝の行程だからユックリ行けばよい。
普通の時間(7時)にユックリ朝食を食べたあと食休みをし、8時に出発した。

  天狗原に上がるには、ビジターセンターの手前を右に入って沢の対岸で尾根に取り付く。
数年前に栂海新道を目指して、白馬大池の小屋に行った道だ。

ひと登りすると岳樺、ブナの自然林に入った。

 小尾根の背に乗ると視界が開け、姫川谷の向かい側に並ぶ北信濃の山々が墨絵のようだった。

  右手に広大な視界が開け、安曇野を覆う雲海の広がりに、志賀、浅間、上信国境、八ヶ岳、美ヶ原、南アルプスなどが海原に浮かぶ島のようだった。

(画像をクリックすると雲海のパノラマが表示されます)

  小尾根の登りが終わって天狗原に掛かる所に "銀嶺水" と言う水場がある。

  左に回りこむように登って行くと天狗原の一角に出て、前方の視界が開ける。
僅かながら紅葉が始まっていた。


  短い急な登りの上から平坦な木道に乗った。
右手にゴツゴツした大岩の積み重なりがあって、高い所に祠が見える。









  やがて、池塘の縁に出た。
広大な湿原のの先に北の乗鞍岳が穏やかなスカイラインを描いている。
木道が広がって休憩プラットホームになっている所にザックを下ろした。
天狗原の池塘と北の乗鞍岳    (画像をクリックすると拡大します)


  池塘の脇の休憩場所から5分あまり先に進んだ所で道がYの字に分岐している。




  分岐を右手に入って千国揚尾根へのルートを歩き出すと鉄道レールのような2列の木道になる。

  妙高から雨飾山への山なみを背に美しい湿原風景が連続した。
花の多い季節にまた来てみたいと思った。
  天狗原末端の急斜面を斜降して千国尾根に向うところでは北信五岳のパノラマが素晴らしかった。
高妻山と火打岳はまだだから足腰立つうちに出かけねば、と思った。
(画像をクリックすると拡大、自動スクロールします)

  短い急降下のあと尾根に乗った。
尾根の先の方に風吹大池のうしろの山が見えた。
右下の谷の下手では大規模な地すべりの跡が見える。


   古いガイドマップの解説にはルートが溝状になりぬかっている部分が多く、歩き難いと書いてあった。

実際には、そのような部分はみなルートが付け換えられ、尾根上の乾燥したところを歩く様にかわっていた。

  切り株の切り口や踏跡のつき方から見てこの工事は割と最近行なわれたようだった。


  風吹大池から天狗原まで、30個の丸い標識板が樹木に打ち付けられている。
15/30と記された標識のすぐ傍に直径3m 程の大石があった。

  大石の先の木陰にザックを下ろして休憩。
栂池から風吹大池まで半日の行程だが、久し振りの山道でどうかと思った。
登りが厳しくなかったせいか、ここまでのところ割と楽に歩い来られた。



  遠くから見えた崩壊地の手前あたりで尾根の右側から背に上がる所で右側の樹林が切れ、後の方に乗鞍岳が見えた。
天狗原からは平坦に見える山だがこのあたりからは結構凸凹があって "山らしい" 形になっている。


  森の中に入り、尾根の背にある小池塘の横からごく浅い鞍部を通過すると間もなく蓮華温泉分岐がある。
暗いシラビソの森の中だが、道標が二本立っているので見過ごす事はない。



  沢溝を渡ってひと登りすると風吹の天狗原の端に出る。

  緩やかに傾斜している山上の高層湿原はみちのくの葛根田谷奥の八瀬森付近の湿原を髣髴させた。

  先に見える二子のピークは大池のうしろの山だ。
ここまで来れば殆んど着いたも同然だ。



  やがて左下の林の隙間に大池の水面が見えて来た。
急で狭い木の階段を下って池の脇に出た。

  シンとした森の中で空の青を映している大池は神秘的な雰囲気を湛えている。
  小屋は池の縁から始まる湿原の奥手にあった。
メインルートから外れた裏通りの小屋にしては大きいなぁ、と思ったが、外構は巨大な太陽発電パネルの小屋掛けで、鉄骨造りの大屋根がすっぽり小屋を覆っていた。

  山裏の地すべりモニター施設に必要な電力を得るためのものだが、発電量に余裕があるため、小屋では潤沢に電力が使える。
電気冷蔵庫まで備えていると言う。


   ユックリお昼を食べ、落ち着いた所で散歩に出た。
池の東岸を歩き、池尻からさらに奥手の谷戸に入ってゆくとちょっとした池塘があり、その横を通り抜けていった奥に、風吹の神の田圃と呼ばれる湿原がある。

  凸凹の多い高層湿原で、横手の山裾には細長い池塘が階段状に並んでいる。
ここも花の多い季節に来てみたい所だ。


  花の季節は過ぎて、目に入るものは木の実ばかりだったが、小屋の前庭に赤白のアカバナが咲いていた。
山の写真はいつも手持ちで撮っているが、今回は時間の余裕があるので、往年、名玉と謳われた望遠マクロレンズと、接写用のミニ三脚を持って来た。
これらの古道具は、栂池ではあまり使い道がなかったがようやく真面目な接写を行う場面が得られた。

  マクロレンズは、もともとニコン用のをアダプターを介して強引にオリンパスのボデイに取り付けているのでオートフォーカスは利かないし、露出も絞り優先モードに限られる。
しかし、画像サイズがフォーサーズだと最大1:1サイズのイメージが得られ、画角の一部しか使わないせいもあって描写力は最高。
まるで30年先の未来にビッタシのデジカメボディが開発されるのをを予測していたのか、思うほどの絶妙な組み合わせだ。

  衰えた視力でマニュアルフォーカスのピントを合わせるのが難しかったが、事後の補正の自由度を確保するため JPG 画像のほかに RAW データも記録した。

  小屋の管理人はこちらと同世代の藤沢の人だった。
同じ神奈川県人で馬が合ったのと、ほかに客がないのとで気安くなり、色々な話をした。
この小屋に何度も通っているうちにオーナーと馴染みになり、志願して管理人をやらせてもらっていると言う。
気に入った小屋の管理人をやるなんて山好きの理想だと言ったら嬉しそうな顔をした。

  この小屋は常連客が多く、10月上旬の紅葉の時期が一番混むそうだ。
それが終わると今年の営業は終わりで、雪備えをして山を降りる。
管理人の仕事は2年間やったが、それまで終わりにし、またあちこちの山へ出かけたいと思っていると言う。

  食事は焼肉、煮物、野菜の和え物など。
これまで泊まった小屋のうちで最高のご馳走だった。
小屋のオーナは栂池高原でペンションを経営しているが、こだわり派の料理人で、下で作った料理を4、5日に一度荷揚げしていると言う。

  明かりは蛍光灯だったがテレビは勿論、ラジオもノイズが多くてよく聞き取れなかった。
食事のあとしばらく話して寝床に入った。

                                                                                                             先頭に戻る

月21日

<タイム記録>

    風吹山荘(6:00)-蓮華温泉分岐(6:25)-笹目尾根上(7:00)-北信五岳展望点(7:05/10)-pt1866(7:35/40)-下降点(8:10)-(8:45)風吹大池口バス停[9:50]=(バス)=[10:00]蓮華温泉[10:07]=(バス)=[11:07]平岩駅(11:10)-姫川温泉(11:15/12:15)-(12:20)平岩駅[12:52]=南小谷[13:20]=(アズサ#24)=[17:01]八王子=長津田=宮崎台

◆夜明け時に目が覚めた。
雲ひとつない晴天で、今日も好天に恵まれそうだ。
薄暗い中でコーヒを淹れ、ミニパンとバナナで腹拵えをした。
10時過ぎに蓮華温泉を出るバスに余裕を持って間に合うよう、6時に出発した。

  波ひとつなく静まり返っている大池の脇から天狗原に上がり、尾根の左側を回りこんで行くと昨日歩いてきた乗鞍岳が朝日に輝いていた。


  安曇野は今日も雲海で、遠くに八ヶ岳が浮かんでいた。

  天狗原から森に入るとすぐ先に分岐点がある。

  右手の笹目尾根道に入ってややゴチャゴチャした感じの所を緩やかに登って行くと大きな湿原に出た。

  行く手の森の上に主脈の雪倉岳から朝日岳への頂稜が見えて来た。
栂海新道目指して雪倉避難小屋から朝日岳まで行った所で台風に遭い、北又小屋にエスケープして終わった翌年、今度は蓮華温泉から登って親不知まで完遂したが、最初の関門となる五輪山の登りで大バテになった。

  緩やかに傾斜している湿原の上端近くまで進んだ所で後ろを振り返ると大池の後側にある二つの山の間に雨飾山が顔を出していた。

  笹目尾根の道は急な登降がなく穏やかなルートだったが一部を除いて濃密な冷帯林に覆われて水っぽい所が多く、所どころぬかり気味になっていた。









  途中に、広い草原があった。
湿原と言うより、吹き溜まりで遅くまで雪田が残るため、樹木が育たない場所のようだった。

  主脈の稜線が大分近くなり、朝日岳と五輪山が正面。
その右手は栂海新道北部の尾根続きのようだった。

左から雪倉岳、赤男山、朝日岳、五輪山、栂海新道北部    
(画像をクリックすると拡大、自動スクロールします)


  やや急に下る所で尾根の行く手が見渡せた。
遠くに見える岩山は栂海新道からも見えた明星山に違いない。

尾根の先の方で突出しているのは1799m 峰で、その手前の鞍部に下降点がある筈だ。

  今日の行程もショートレンジだが中間点あたりまで順調に歩けていることを確認でき満足した。

  ルートがまた森の中に入ってまわりの視界が閉ざされた。

  しばらく進んで尾根の右側に捲き下る所に樹木の隙間があって視界が広がった。
大峯の谷とは対照的に広広した地形で、至るところに緩傾斜地がある。

  ザレ気味の所に標柱が立っていた。
谷の眺めはますます広広してきた。

  やがて下降点を示す標柱が立っていて、その脇を左折して山腹に入った。


  かなりの急斜面で、よそ見をしながら歩くのは難かしかったが、樹木の隙間の正面に雪倉岳が高く見えた。

  やがて下の方に車道が見えてきてヒョッコリ舗装道に飛び出した。
蓮華温泉までユックリ歩いてもバスに間に合いそうな時間だったが退屈な車道歩きをするより、ユックリ待っていれば平岩駅から登ってきたバスが通る筈だ。

それに乗って蓮華温泉に行き、折り返せばよいと思ったのでバス停ポストの脇に座って、飲み食いをしたあと、山の写真を写しながら近くを散歩した。

  バスは定刻にきて10時チョッキリに蓮華温泉に着いた。

  折り返し発車まで7分しかないのが残念だったが、温泉の建物の前まで行き、正面に並び立つ朝日岳から栂海新道北部の山並みを眺めた。
蓮華温泉前から眺めた朝日岳、五輪山から栂海新道北部の山並み    (画像をクリックすると拡大します)


  平岩駅行きのバスはザックに銀マットを縛り付けた若いふたりと乗り合わせた。
あとで聞いた所では白馬を縦走して来たそうだ。
快晴が続いたから気分の良い縦走だったに違いない。
谷の下手の方には白池とよばれる大きく綺麗な池があったり、杉平と呼ばれる高原状の地形があったりする。
都会に近い便利の良い所だったら、巨大なリゾートホテルか何かの建物が建ったかも知れない。
濃密な原始の森の風情がいつまでも損なわれないでいて欲しい。

  平岩駅でひと列車見送り、駅から5分の川向いにある姫川温泉の旅館の立ち寄り湯に行った。
川岸の岩場を利用したと思われる "岩風呂" で汗と垢を洗い流して着換え、サッパリした。
蕎麦か何か食べたいと思ったが、旅館と駅の近くには何もない。
仕方なく、駅前の店でジュースを買い、予備食のかき餅などで腹つなぎをした。
信濃森上で乗り継いだあずさも岡谷を過ぎるころまで車内販売が来ず、午後3時を過ぎてようやくマトモな食事にありついた。


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☆おわりに
    山に登ったというのも憚る程度のごく軽い山歩きだったが、天気と泊まり場とに恵まれ、素晴らしい山歩きができた。
少々遠いが、普通なら1泊2日で歩けるルートだから割と気軽に行ける。
花の多い時期にあわせてもう一度出かけてみたい。


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