平林-ほこら小屋-櫛形山-小笠原 (2005.7.21-22)


☆期日/山行形式:
2005年7月21-22日
☆地形図(2万5千分1): 小笠原(甲府11号-1)、鰍沢(甲府11号-2)、夜又神峠(甲府11号-3)

☆まえがき

    4年前の春、櫛形山に行った。
モッソリ大きく、鈍重な感じの山だが、凍結した林床の残雪を踏んで登った裸山の頂上では、早川谷の向かい側に立ち並ぶ白根三山の雄姿を楽しんだ。
その時泊まった県民の森ロッジの管理人に、この山のアヤメの群落は日本一だよと聞き、いつか花の時期に、再訪したいと思っていた。

  今年は、5月に大峰で石楠花と躑躅の豪勢な花見ができたのがきっかけで花志向になっている。
櫛形山への再訪を果たすべき年ではないかと思った。
高い所まで車道が通じているので、行き帰りのアプローチにタクシーを使えば日帰りもできるのだが、時間があるのに慌しく山を歩かなければならない理由はない。
頂上直下、南尾根と中尾根と、ふたつのルートが合わさる祠頭にあるホコラ小屋に泊まって歩くことにした。

  前回登ったとき、たまたま再建されたばかりのこの小屋を見つけた。
内部には桧の香りが立ち込め、素晴らしい泊まり場だと思った。
小屋のすぐ奥手には清冽な水が流れている。
今度来た時には、ぜひとこの小屋に泊まって見たいと思った。(下)

  今回の計画のあらましは、甲府から山交バスで青柳まで行き、青柳車庫から出ている増穂町営バスで平林(750)へ。
集落の奥にある氷室神社(980)から南尾根ルートを経て祠頭(1800)に登り、避難小屋に宿泊。
  翌朝、バラボタン平(2020)を経て櫛形山頂上(2053.5m)に登頂。 さらに裸山(2002.6)、アヤメ平(1900)をまわって北尾根ルートを下降。 田中澄江記念展望台(1325m)から伊奈ヶ湖近くの県民の森へ降りてシャワー/食事をし、タクシーで小笠原に下山。  甲府経由て帰ろうというものだった。


  梅雨の間、家に篭りがちになったため足腰が錆付き気味の状態で、宿泊装備を背負って1000m あまりの標高差を消化するのはなかなかきついアルバイトだったが長い時間が掛けて、何とかバテ込む前に小屋に入れた。

  ほかに誰も来る者はなく、綺麗な小屋を独り占めして快適な泊まりをした翌日は落ち着いた空模様に恵まれた。

  気分の良い山歩きができたのだが目当てのアヤメがもうひとつだったのは残念だった。

  花期のピークを過ぎていたせいもあるのだが、今年の気候のせいで、ほかの草木の成長が早く、せっかく咲いているアヤメの花がその中に埋もれ、目立たない状態になっていた。
展望の方も期待はずれだった。
靄が濃くて見通しが悪かったうえに、濃密に繁茂した森が視界を妨げ、真近かな白根三山はじめ、ほとんど何も見えなかった。


☆行動記録とルートの状況

月21日
<タイムレコード>

    宮崎台[9:06]=溝ノ口=立川[10:00]=[11:13]甲府[11:30]=(山交バス)=[12:21]青柳/(0:05)/青柳車庫[12:40]=(増穂町営バス 月水木土運行)=[13:02]平林(13:20)-氷室神社(14:00/15)-水場(14:45/55)-林道(14:45/55)-(17:10)祠頭{ホコラ小屋}

◆今回は珍しく、朝食を食べて家を出た。
平林から祠頭まで、1000m 超の標高差を消化しなければならないのだが、小屋に着いたら食事をして寝るだけだから、お昼過ぎの増穂町営バスで入山すれば十分間に合うと思ったからだった。

  甲府から青柳までは山梨交通の路線バスで行く。 青柳での増穂町営バスへの乗り継ぎはかなり変則で、下の地図(クリックで拡大)のように山交バス停から500m ほど離れたコンビニ(ローソン)の駐車場の隅にある青柳車庫ターミナルまで歩かなければならない。
前もって町役場に電話で問い合わせ、乗り場を確認してあったので良かったが、もしこれを怠ったらトラブッたかも知れない。
町営バス乗り場付近からは、行く手に櫛形山が高く聳えているのが見えていた。
今回利用した12:40発の平林行きの便は、月/水/木/土のみ運行で、火/金/日は走らない。
朝の8:58に出る便も同様だ。
運賃はいたって安くたったの150円だ。

  バスの乗客は病院帰りらしいオバァサンと二人だけだった。
変則運行の理由をドライバーに尋ねてみた。
一台しかないバスを一人で運行しているため、毎日運行すると月あたりの就業時間が法定労働時間枠を大幅に超過してしまうので、このような間引き運行にしているのだと言う。
「それじゃぁ病気にもなれないですね」と言ったら、「そうなんですよ。 風邪気味でも休めないんですよ」という返事。
  櫛形山南尾根ルートの登山口: 氷室神社のある平林は、"利根川" 谷に分け入った所にある河内の集落だった。
「ここで降りて歩いて行った方が近いよ」と、ドライバーに教えられて下車し、歩き出した。
谷の奥に祠頭と思われる平頂が高く見えている。(左)

  非常に暑い。
熱中症にならぬよう、川沿いの道をノロノロ歩いて行った。
少し先でT字に突き当たったので左手の橋を渡り、対岸の角の家の物置小屋の陰で山支度を整えた。

  念のため家の戸口から声を掛け、出てきたオバサンに道を確かめた上で歩き出す。
教えられた通り、川の右岸沿いの細い舗装道を進んで行くと左手から登ってきた広い車道に突き当たった。
  右に折れて進むとまもなく石鳥居があった。
鳥居を潜って石段道を上がって行ったらすぐにさっきの道路の続きに出た。
今度は道なりに登ってゆくと左のような参道入口に着いた。
石鳥居のまわりに立つ石灯籠や説明看板の中に "鷹尾山 氷室神社" と刻んだ石塔があった。

  鳥居の下からまっすぐ登る石段があったが正直にこれを登るとバテそうなので右手に上がって行く車道を進んだ。
この車道は、車で神殿の脇まで上がれるよう、あとから作られた道路で、石段の横手の山腹をつづら折れに登っている。
  ノロノロ車道歩きのおかげで時間は掛かったが疲れずに社殿のすぐ下の山門の横に登り着いた。
山門を潜り、石段の最後の数10段を登って神殿の前に出た。

  杉の巨木が林立する中に白木作りの立派な社殿と神楽舞台がある。(左)
  ここは既に標高が1000m に近く、林間を爽やかな風が吹きぬけている。
神殿の横手の池にパイプの引き水がしてあったので、喉を潤しペット瓶を満たした。


  南尾根ルートの入口は神殿の左脇だ。
しっかりした道標が立っているので間違えるおそれはない。(左)

  このルートは "南尾根" と言ってはいるが歩き出しから30分ほどは谷の中を登る。
あまり体調がよくないのと、久し振りの泊まり装備の重さとのため、ピッチが上がらない。
頑張ってバテてさらに状況を悪くせぬよう、ゆっくりペースで進む。

  ひと登りした所に水流があった。
喉を潤し、顔を漱いで暫く休んだ。

  水場の先をひと登りで尾根の上に乗った。
ゆったりした尾根の斜面を大きく緩やかにジグザグを描いて行く。
厳しい登りがないのは足腰が錆付いた年寄りにとってはありがたいことだ。

  崩壊で通れないと記した義丹の滝への入口を見送って進んで行くとようやく林道に出た。

  舗装車道を左に進むと写真のような入口がある。
車を使う人にはここが南尾根ルートの登山口になっているようだ。
道幅が広げられ車が停められるようにしてある。

  スローペースのため大分遅くなってしまったが、7時過ぎまでは明るいのだから無理に頑張って、明日の行動にさしつかえないようにと割り切り、長休みをした。

  車道の石段から2ピッチでようやく傾斜が緩み、やがて祠頭に着いた。
北尾根を登ってきて小屋に入る道と南尾根から頂上に向かう道とが十字路になっている。(下左)
  ガイドマップの標準タイムの倍も掛かってしまったが余力を残してここまで登りつけたのが何よりだった。

  増穂町が建てた "ほこら小屋" は、新築から4年経って、桧の香りはしなくなっていたが内部は下の写真のように清潔に保たれていた。

  数本の箒とバケツ一個しか置いてなくて、雑多な物が持ち込まれずにいるのが良いのかもしれない。

  ただ、建て付けが良すぎて風通しが悪いため、締め切ってあった内部の温度が上がり、蒸風呂のようになっていた。

  まず小屋の窓を開けて冷風を通し、中に閉じ込められたまま熱中症で亡くなっている虫達の死骸を外に掃きだした。
次に水場に行った。
水場には手が切れるような、清冽な水が流れていた。
コッフェルとペット瓶に飲み水を汲み、身体を拭くための水をバケツに汲んだ。
小屋に戻って全身を拭い、乾いた物に着替えるとサッパリした。

  銀マットくらいは置いてあるかもと期待して、薄手のインシュレーションシートしか持ってこなかったが、何もないので、4枚重ねに畳んで敷き、何とか用を足らした。

  あたりに誰もいなくて寂しいのでポケットラジオのスイッチを入れた。
夕食は調理の手間を省くため甲府駅で買ってきた釜飯弁当と、"おみそ汁の大革命" と称するデラックス版即席味噌汁との組み合わせにした。
幾分脱水気味のせいか、唾液の出が悪くて食べにくい。
オカズ優先に食べ、味噌汁も全部吸い、ご飯は三分の一ほど残して終わりにした。

  7時半頃に暗くなった。
いつものように短く切って来た百匁ロウソクを灯し、ボンヤリしていたが特にすることもない。
自然に従って寝ることにした。
普段使っている睡眠導入剤を服んだらまもなく眠くなったが、ひと眠りしただけで目が覚めてしまった。
普段よりとんでもなく時間が早すぎるせいだった。
ふたたびラジオをつけて聞いていたが、しばらく経ったところで、あらためて睡眠薬を半錠服んだ。
これは非常に効いて良く眠り、翌朝の5時半近くに、パッと目が覚めるまで前後不覚に熟睡した。
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月22日
<タイムレコード>

    祠頭(7:15)-バラボタン平(7:55/8:05)-櫛形山頂上2052m(8:20/40)-裸山(9:25/35)-アヤメ平(10:00/05)-田中澄江記念碑(11:00/20)-高尾伊奈ヶ湖林道(11:55/12:00)-県民の森(12:25/13:55)=[タクシー \2490]=(14:10)小笠原バス停[14:21]=[14:58]甲府[15:04]=[16:01]八王子=長津田=宮崎台

  目が覚めるとすぐに窓の外を見た。
前夜の天気予報はあまりパッとしないものだったが綺麗な青空が広がっていた。
昼頃には県民の森まで下れる見込みだが、それまでは十分もちそうだ。

  時間はたっぷりあるのでゆっくり食事をし、食休み・トイレ・パッキングと、時間をかけていつもの通りの朝のルーチンを済ませて小屋を出た。

  小屋の前の十字路の少し先からやや急な登りになるが、約100m 程の標高差を消化すると、また緩やかになる。
桜峠・池の茶屋跡からの巻き道の合流点を過ぎて、椴松や岳樺の濃密な森の中の道を進む。
日が遮られて涼しい蔭が吹き、気持ちが良い。(左)
ただ、それと引き換えに視界が遮られ、遠くへの展望が得られないのは仕方がない。

  少し先でまた一段登った所に三又路があった。
左に折れて櫛形山頂上を目指す。

  暫く進んだ所に開けた場所があった。
ガイドマップに "バラボタン平" と記入されている場所のようだった。
広場の脇を通り過ぎた所にまた三又路があって左は頂上から池の茶屋跡へ、右は裸山からアヤメ平へと記した道標が立っていた。


  左に進むと幅広な尾根上の登りになる。
15分ほどで "櫛形山頂上、標高2053.5m " と記した看板のある広場に着いた。(左)
大木に囲まれ、重厚な雰囲気がある。

  ガイドマップにはもうひとつ先の2051.7m 峰(奥仙重)が櫛形山頂上だと記してあるが、僅かながらこちらの方が高いし、雰囲気も良い。
ここで "頂上の休憩" をした。


  バラボタン平に戻り、三又路を左に入って裸山に向かう。
道は良く踏まれているがまわりの森は非常に濃密だ。
気候が湿潤なせいか枝からサルオガセが下がっている木が目立つ。

  前方に裸山の盛り上がりが見えてきたところで単独の熟年ハイカーと出会った。
昨日の入山以来初めての人間だ。

  遠方くからわざわざ "花見" に来たようで、あまり咲いていなくてガッカリだったと言い、明日は甘利山に行く積もりなのだがそちらはどうだろうかと聞かれた。
甘利山はこの時期には行っていないので分からないが、草原になっている所が多いから期待できるのではないだろうかと答えた。
実際はどうだろうか?
  裸山の手前の草原に出た。
男が言っていたようにアヤメの花はあまり見えない。
増穂町役場の "山の担当" が言っていたが、雨が少なかったせいでほかの草が繁茂し、その間にアヤメの花が埋もれてしまっている。
  お花畑が踏み荒らされないよう張り巡らされたロープの間の道を通って裸山に登った。(左)

  白根三山の展望を期待していたのだが木の葉が茂って "良いところはみな" 隠してしまっている。
僅かにいま登ってきた櫛形山頂上周辺だけが見え、この山の大きさを物語っていた。(下)

  頂上の反対側を回って下り、アヤメ平に向かう。
草原の中を良く見れば結構な数のアヤメが咲いている。
何かで崩れた裸地の手前では数輪のアヤメとヤナギランが見えていた。

  緩やかに登って主稜を越し、僅か下って行った所がアヤメ平だった。
途中で数人と出会った。
朝起きたら天気が良かったため、車で林道を上がってきた感じの人達だった。

  ここは来る人が多いようで林間にトイレが設けられ、雨宿り用の小屋もある。
小屋はちょっと見には格好が良いのだが基礎の土盛りがまずかったようで、内部の床の周囲が沈んで真ん中が盛り上がり、妙な感じに歪んでいる。
付近に水場もないから泊まり場には適していない。



  ここもいろんな草が繁茂してアヤメが目立たなくなっていたが小屋の近くの日陰の部分だけは、いくらかは見える状態になっていた。

  曲りなりにアヤメを見られたのでいくらかは満足して下山に掛かった。
北尾根ルートは整備が行き届いていて、至極歩きやすい。
下って行くと、次々に人に会うようになった。
田中澄江記念碑のある展望遠地からだと、短時間で山に上がれるため、多くの人がこのルートを利用しているようだ。
みなアヤメが目当てで、挨拶もそこそこに、「アヤメはどうでしたか?」と聞く。
ひと下りした所に水飲み場があった。
下り5分、登り15分ということだから気軽に立ち寄る訳にも行かない。

  高度が下がるにつれて徐々に気温が上がって来たが、まわりの木が濶葉樹に変わって日を遮り、風通しも良くなるので助かる。

  平成峡遊歩道が合流したところからひと下りで林道に出た。









  舗装道を左に150m ほど行った所に田中澄江記念碑の展望園地がある。
付近の駐車スペースには6、7台の車が停めてあった。
  石碑の脇からは甲府盆地方面への広大な視界が得られる筈なのだが今日は霞が濃くてすぐ近くの山麓さえ定かでない。

夏の日の照りつける舗装道は路面が焼けて非常に暑い。
尾根の上に東屋が見えたのでそこに上がってみた。
爽やかな風が吹きぬけていて気分が良い。
園地を見下ろしながら林檎を食べ、ジュースを飲んだ。
  県民の森はもう一段下を通っている伊奈ヶ湖林道に面している。
膝まわりの筋肉に少々疲れが出てきたのでそれ以上傷めぬよう、ペースを加減しながら下った。

  林道に出たところで右折、20分あまりで県民の森に着いた。(左)
ここはほとんど山麓の公園といった感じの場所で、広い駐車場のまわりに、ロッジ、キャンプ場、イタリアンレストランがある。

  まず、グリーンロッジに行ってコインシャワーを浴びた。
100円入れると3分間お湯が出る。
全身の汗を流して着替えた。
  サッパリして気分が良くなったところで駐車場の向かい側にあるレストラン "ミシェル" に行った。
パスタ類中心のイタリアンだが、笊蕎麦やカレーもできるという。
ちょっと迷ったがこの頃の山のあとの定番になっている笊蕎麦にした。
格別な味のものではなかったが身体の塩分が抜けていたせいか、とても美味しく感じた。

  蕎麦のあとはコーヒーを飲み、タクシーを呼んで小笠原に下った。
櫛形山の山麓は扇状地が広がり、果樹園が多い。
桃とスモモだという。
小笠原の街は、送電線が地下埋設方式になって、町並みがサッパリ綺麗に整備されていたが、シャッターを閉ざしたままになっている店が目立ち、かえって寂しい感じもあった。

バス停では10分あまりの待ち時間があったが、暑くてとても日向にはいられなかった。


☆おわりに
  アヤメはアヤメは期待外れだったがホコラ小屋の泊まりは最高だった。
紅葉の時期に再訪し、白根三山の展望とともに楽しみたい。

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