淺川-淺川峠-権現山-麻生山-駒宮 (2005.3.27)


☆期日/山行形式:
2005.3.27 単独、日帰り

☆地形図(2万5千分1): 大月(甲府3号-1)、上野原(東京14号-4)、七保(甲府号2-2)、
                                    猪丸(東京15号-3)
☆まえがき
    厳冬期の間はもっぱら近郊の丘陵と三浦の超低山を歩いていたが、3月も半ばを過ぎて寒気が緩み、日も長くなって、雪山・薮山を楽しく歩ける季節となった。
春山モードへ移行してゆく時期の山行地として、権現山と麻生山を繋ぐ稜線を選んだ。


淺川峠への登路から望む権現山の頂稜、左手奥の高みが麻生山

  ここは大菩薩から奈良倉山を経て扇山へと連なる長大な稜線に残っている3箇所の短い未踏区間のひとつだ。
昨秋歩いた麻生山-三森の東側に隣接しているので、前回登って様子が分かっている麻生山長尾根を下降路として使える。
  権現山(1311.9)へは、浅川(600)から浅川峠(867)を経て登ることにした。
こちらは十年以上前に通って以来なので、どう変わっているか見るのが楽しみだ。
権現山から頂稜を西に辿れば、ほぼ中点にある、標高1252m の中間峰を経て、長尾根直登ルートの稜線到達点にある石標43号まで、1時間とは掛かるまい、と言う計算を立てた。
下降路は、前回とはちょっと変化を付け、麻生山三角点(1267.5)峰から麻生山山名標のピーク(1265)を経て尾名手峠(1215)まで行き、本来の峠道だった斜降ルートを経て長尾根直登路との合流点(1100)へ行くことにした。
あとは勝手知った長尾根の道だからのんびり歩き、940m の平坦部を経て駒宮(530)に下山。
葛野川対岸の富岡(390)バス停から大月駅に戻る計画とした。

週末週日に関わらず、いつでも山に行ける身分になっているのだが、他のもろもろの用事と準備との兼ね合いで日曜山行となった。
日曜日だと近郊の山は混むのではないかと少々心配しないでもなかったが、地味な山だったせいか、1パーティと一人に出遭っただけという空き具合で、静かな山歩きができた。
天気の回り合わせは最高で、空は澄み切って、風は寒からず、隠れた展望の名峰の頂上の眺めを存分に楽しんだ。
はかばかしい標高差消化からは、久しく遠ざかっていたため、怠け癖が染み込んだ足腰の筋肉は、今回の山行のそこそこの高度差に耐えはしたが、便数の少ないバスの早めのに間に合わそうと、下降路をでノンストップで歩ききってしまったのが応えたようで、帰りの乗り物の中で身体が冷えてきたときともすれば頚痙ししそうになって、悩まされた。


☆行動記録とルートの状況


<タイムレコード>
    宮崎台[6:27]=長津田=八王子[7:29]=(スーパーあずさ1号)=[7:55]大月[8:10]=(バス\670)=[8:50]浅川バス停(9:00)-夕滝橋(9:10)-浅川峠(9:45)-展望点(9:50/55)-小休止(10:40/45)-稜線(11:10)-権現山(11:20/40)-道標(12:15)-石標43峰(12:30)-麻生山三角点峰(12:35)-山名標と展望の峰(12:40/45)-尾名手峠(12:55)-長尾根合流点(13:10)-尾根上の道(13:40/45)-駒宮・峠分岐(14:10)-(14:30)富岡バス停[14:35+5]=[15:07]大月[15:25]=(東京行快速電車)=[16:18]八王子=長津田=[17:30]宮崎台


◆ 大月駅から山に向かうバスは毎年何度も乗ってすっかり馴れっこになっているのだが淺川行きだけは別だ。
多分十数年振りだろう。
今でも運行されているのかどうか心配だったので前日に電話で聞いてみたら、朝8:10の大月駅発と午後3:00に浅川から出る便は毎日運行だという。
このお陰で猿橋からタクシーを走らせる必要がなくなった。
乗り継ぎの便が良く、幾らかは朝寝坊もできるということで八王子から大月までは特急あずさを利用した。
快晴の日曜日だったがまだ季節時が早いせいか、ハイカーは少な目で、八王子からでも空席にありつけた。
  バスはドライバーと客一人ずつで発車。
途中立ち寄った猿橋駅で青年が一人乗り込んだだけだった。
油代も出ないのではないかと思いながらも淺川までバスドライブを楽しんだ。

  バス終点の広場の奥手に大月市が立てた金属道標が立っている(左)。
前の週の大野山で、滅多に山に履いて行かない靴と靴下の組み合わせを間違え、珍しく大きな肉刺が両踵にできて痛い目にあった。

  そのせいで足裏を一週間軽石で擦らなかったのが原因でひび割れがひどくなった。
剥れかけた表皮を剥き損ねて傷にしてしまった。
普通に歩いても痛むので、これ以上山中で痛まぬようジャンボサイズのバンドエイドを貼って保護することにした。
道標のすぐ脇に腰を下ろし、靴と靴下を脱いで手当てをする。
  靴を履きなおした上にスパッツを着けて林道に入り、約15分で道標の立つ終点に着いた(左)。

  ひと昔前に比べて道が整備され、格段に良くなっているような気がする。

  谷沿いから杉林の中を折れ登って尾根の上に出ると伐採あとの潅木林になっていて梢越しの視界が広がる。
権現山の頂稜はまだ遠くて高い(冒頭パノラマ)。

  傾斜が緩むとまもなく前方に淺川峠の道標が見えてきた。
淺川峠は広々した平地だ。
浅川側と棚頭側の峠道が数十メータずれた食い違い峠になっているせいで、何本もの道標が立っている。

  この前来た時もそうだったが淺川から峠までの登りは案外楽で4,50分もあれば登れてしまう。
天気は上々で体調も良く、疲れを感じなかったのでそのまま左折して進んだ。

まわりの林はまだ枯れ枝のままだが、彼岸を過ぎて力を取り戻した日の光が差し込んでカラリと明るい雰囲気になっている。

  コブをひとつ越し、尾根がやや狭まった所に立っている松の大木の脇は景色が良かった。
根方にザックを下ろし、ひと息入れながら展望を楽しんだ(下)。
  淺川の谷はその名の通り広々とした浅い谷だ。
緩やかな南向き斜面の裾に沿って集落の家が並んでいる。

  谷の出口を横切っている葛野川の向かい側、尾越山、水無山、セーメーバンの尾根筋が並走している先の空に、雁ガ腹摺山から楢ノ木尾根、小金沢から滝子山への連なりが、スカイラインを描いている。

  白岩ガ丸のあたりに雪の白いパッチ模様ができている。
  緩やかに登ったり僅かに下ったりしながら進んでゆく。
左側は檜だが、右側が濶葉樹になっているので日当たりが良い。
ふたつ目のコブを越したあたりから権現山主稜への登高が始まる。
傾斜が強まるが、丁寧なジグザグコースになっているので登りやすい。
まわりが落葉樹林になったところでふと気配を感じたので立ち止まって、後を振り返ってみたら林の先に大きな富士山が立っていた。
大量の積雪に覆われ、年中でもっとも秀麗な時期だ。

  稜線が近づいて尾根の傾斜が緩むまでジグザグ道が続いた。
ひと昔前に通ったときは、潅木の薮の中の踏跡状の道だったような気がする。
その後に登山道が整備されたようだ。
  稜線の近くには旧道の痕跡が残っていて新しい道と交錯していたりするが、そこまで行けば主稜上の縦走路は真近かだ。
まもなく、合流点に立つ道標が見えてきた(左)。
  少し前からなんとなく人の声らしいのが聞こえていた。
右折して頂上に向かって歩き出すとすぐ、10人ほどの熟年パーティと出会った。
  やや急な所をひと登りすると権現山の頂上だった。
日曜日だから何人か来ているのではないかと思っていたが無人だった(左)。
この頂上も以前は樹木に囲まれた割と狭苦しい所だったような気がするのだが、今は広々とした展望広場になっている。
  もう春なのに大気が澄んで山の輪郭がクッキリしている。
南に見下ろす百蔵山の先に御正体から文台山が連なりその先に富士山が立っている(下)。

  久し振りに700m ほどの標高差を消化して、終わりの方ではスタミナが切れかかったが、心配していたほどには疲れずに登頂できた。

(写真をクリックすると拡大します)
  山の裏側を見る。
谷向かいに三頭山と笹尾根が穏やかな起伏を描いている(左)。
三頭山の左奥は奥多摩主脈の連峰だ。
頂上付近に雪田がある雲取山を真ん中に、鷹取山から飛竜山への頂稜が連なっている。

  バテた訳ではないが、ウイークポイントの胃袋だけはお疲れの様子で、固形物を食べる気になれない。
グレープジュースを飲みながら休んでいたら単独のハイカーが登ってきた。
こちらと似りよったりの歳だ。
初戸から玄房尾根を登ってきたという。

  ふた言、三言話したあとでザックを背負った。

  こんなに急だったのかと言う感じで、足が滑らぬよう注意して頂上直下の下りを降りた。

  浅川峠道合流点から先は今回はじめて通る所だ。
分岐点に立つ道標の片方の腕に "麻生山" と記されていた。
登山道として管理が行われ、藪やルート不明などということはなさそうだと思った。

  大きな起伏がなくて、緩やかに登降を繰り返しながら進んで行く頂稜の道は、なかなか気分がよい。

ただ、進行方向が北のため、下りで残雪の上を歩くことが多い(左)。
雪はかなり古く、部分的に凍結している。


  稜線の北側に広い平坦な地形が広がっている所があった。
そこを過ぎるとまもなく1252m 峰になる。
ちょうど麻生山との中間点にあたる。
標高点石標があるのではないかと思い、まわりに目を配りながら進んだが、結局、それらしいものは見当たらなかった。

少し先に大月市が立てた金属道標が立っていた。

小ピークを越し、麻生山の高みが近づいてきた尾根上に左のような大石が立っていた。
なだらかな尾根道が続いている途中で、突然こんな石に出遭うと不思議な気持ちになる。

  石塔を過ぎ、さらにもうひと登りして右手に回って行った盛り上がりに "恩43" と文字を刻んだ石標があった。
前回、長尾根上部を直登して稜線に上がった所だ(左)。

  ここまでで権現山と麻生山の間の未踏部のトレースは終わった訳だが、今回は尾奈手峠から長尾根へトラバースする旧峠道を確認しておきたかったのでそのまま頂稜を先に進んだ。


  僅かに下り、緩やかに登り返した所が三角点のある麻生山主峰だ(左)。
古びて字がかすれた木製標識の横に新しい金属標識が立っていた。
麻生山で一番高いのはここだがまわりが樹木に囲まれていて眺めが良くない。
隣の北峰は非常に眺めが良く、丸太の腰掛も設けられているので、ちょっと立ち止まってひと息入れたただけで歩き続けた。

”展望峰" は手前の葛野川谷とその先の桂川谷を縦貫し、その先に富士山が立っている形となるため、奥行きのある最高の富士ビューが得られる。

  権現山から歩いてきた一時間の間に出た靄(スモッグか?)と、太陽の方向の変化とで明暗が失われ、景色が平板になってしまっていたのは残念だった。

  展望峰から尾名手峠の間は尾根が細まって、岩っぽくなる。
凍結した残雪に覆われた北斜面を慎重にトラバースして高度を下げ、峠の鞍部に降りた。
尾名手峠はいかにも奥山の峠らしい好ましい雰囲気のある鞍部だった(左)。

  道標にしたがってトラバースルートに入る。
どこでも同じだが、沢窪の上部を横切る所は、崩れ気味になっているだけでなく、下の方に木が生えていないから注意して通過しなければならない。
小尾根を乗越す部分は道形がはっきりするが次の沢窪ではまた崩れ気味の所を渡る。

  10分ほど歩いてそろそろ尾根道だと思った所にちょっとした難場の露岩のトラバースがあった。
真新しい虎ロープが取り付けたあったのでその助けを借りて通過した。
露岩の下部に立っていた大木が倒れて足場がなくなり、通りにくくなったのでロープを取り付けたらしい。

  2,30m 先で尾根上の道に上がった(左)。
合流点に "麻生山--駒宮" と記した金属道標が立っており、尾根を直登するルートの入り口の潅木には赤テープが巻きつけてある。


  標高差で100m ほど、1000m 台の緩傾斜部までは尾根の右側の斜下降が続く。
余所見をしながら歩ける訳ではないが、一度通って様子が分かっているので至って気楽になる。

道が尾根の背に上がるとスッカリ気楽な散歩になる。
厚く積もった落ち葉のクッションが気持ちよい。
右手上空を見上げると麻生山から三森の稜線が高い(左)。

  尾根の下部で沢窪をトラバースして南側の小尾根に移り、662m の小ピークを越して進んでゆくと伐採地の上に出る。

  駒宮一帯を見下ろす所に "峠から駒宮--駒宮" と記した道標が立っていた。
左の峠経由の道は前回通った。
右は直接駒宮に下る道で、近そうに思えたのでそちらに入ってみた。
伐採地の縁を通るところは少々荒れ気味になっていたが思ったとおり短時間で集落まで降下できた。

  バス通りが見えているので集落の中の道を大体の見当で進んでゆくと、前回前通ったT字路に着いた。
    葛野川の手前で振り返ると麻生山と長尾根の上部が穏やかな起伏を描いていた。
車道に上がったのは14:30。 バスの定刻の5分前だった。
定刻より5分程度は遅れてくることを見越して山支度を解いて旅モードに戻す。
通りかかったバァさんと話をしたあと、ひと息ついている所へバスがきて、青年が一人だけ乗っているだけのバスの二人目の乗客になった。
すぐ下の上平で中年男女のハイカーが乗り込んできた。
百蔵山から下りてきたのか、それとも尾越山の尾根でも歩いてきたのだろうか?

大月駅前では時々立ち寄る店でラーメンを食べて帰ろうかと思ったのだが、あまり食欲がないし、15分ほどで東京行きの快速電車が始発することが分かったので、それで帰ることにし、角の和菓子屋に入った。

家への手土産に"特製桔梗餅" なるものを買ったついでに、ひとくち稲荷を三個買って駅に戻り、快速電車に乗った。
電車はロングシートで飲み食いをするには適していなかったが、"ひとくち" のお陰で楽に空き腹を癒すことができた。

☆おわりに
    久し振りに山らしい山を歩いた。
最高の天気と素晴らしい展望に恵まれ、非常に楽しかった。

  ジャンボサイズ(6×9cm)バンドエイドは、時たま山中で出遭う怪我人にあげて、あり難がられていた物だったが、自分に使って助かったのは今回が初めてだった。
よく利いて、貼ったあとは足裏の痛みは感じなかった。

  富岡バス停を通りがかった地元のおばあちゃんに声を掛けられ、「熊だの猪だの出てきて危ないだろうに」、と言われたので、「こっちも熊みたいなもんですから」と答えたら呆れ顔で笑われたが、あたりに人気のない山中で、野生動物の一員になったような気分に浸る心地よさは他に求めがたい。